紙の本
タイム・パラドックスものSFとして、とてもよくできた作品。さすが、アシモフ!
2004/05/20 17:22
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投稿者:風(kaze) - この投稿者のレビュー一覧を見る
この現在地点から無数の枝分かれする線が走っていて、次の時点からまた無数の線に分かれ、別々の世界が存在している。そうした、無数の世界に枝分かれしていってる線、あるいは無数の並行宇宙というイメージに魅せられたのは、ディックの短編「囚われのマーケット」(『模造記憶』所収)を読んだ時だった。以来、歴史改変もの、時間旅行もののSFをかなり読んできたが、本書はそれらのなかでも上位に置きたい面白さと驚きに満ちていた。
タイム・パラドックスもののSFと言っていいだろう。タイムトラベル作品とはとても相性がいいラブロマンスの要素もあるけれど、本書の基調となっているのは、現実に干渉することから起こるタイム・パラドックスの問題と、そこから生じる歴史改変を扱っているところだったように思う。
話の滑り出しは、こんなふう。〈永遠人〉(エターナル)として生きることになった主人公のアンドリュウ・ハーランが、482世紀の現実を矯正する任務に就く。最初は機械的に職務にあたっていたハーランだったが、ある時、ノイエスという女性と出会うことで、自分の職務と〈永遠〉(エターニティ)への疑惑が生まれていく。
うーん、うまいこと説明できてないなあ。話の前半は、設定されている世界観や言葉の意味を掴むのが精一杯でアップアップという感じだったので、それで要領よくまとめられないのかも(ほんとにそれだけか)。
本書が出版されたのは、1955年。「えっ! そんな昔に?! もう半世紀近くも前の作品なのかあ」と思ったくらい、非常に斬新なアイデアが使われている。正直、登場人物たちのキャラクターはそれほど魅力的だとは思えない。しかし、いくつかの謎に対する解答、その発想が非常に秀逸。まるで面白いミステリを読んだ時のような、新鮮な驚きを体験することができた。
本書を読みながらいくつか、印象に残る時間もののSF作品を思い出した。作品発表年とともに記しておきたい。どれもそれぞれ面白かった。時間SFに関心のある方は、ぜひご一読を。
◎レイ・ブラッドベリ「雷のような音」(『太陽の黄金の林檎』所収 1952)
◎ロバート・シェクリイ「時間泥棒」(『宇宙市民』所収 1954)
◎ロバート・A・ハインライン『夏への扉』(1956)
◎ロバート・A・ハインライン「輪廻の蛇」(『輪廻の蛇』所収 1959)
◎ロバート・F・ヤング「たんぽぽ娘」(メリル編『年刊SF傑作選2』所収 1961)
最後に、翻訳について。深町眞理子さんの翻訳は、昔から読みやすい印象を持っていたんだけれど、本書に限っては非常に読みづらかった。日本語の表現としてどうなんだろうねと、まどろっこしかったり、分かりにくかったりする文章があちこちにあった。一例を挙げれば、次の翻訳文。> うーん、分かりづらいなあ。こう表現したら、もっとすっきりするんじゃないかな。> こうした文章のほかに、「きさま」とか「嬢や」という呼びかけの文句にも違和感を覚えた。
と、門外漢がおこがましくも翻訳文についてああだこうだと言ってしまったけれど、タイムトラベル、タイムパラドックスもののSFとしてアイデア抜群、非常によくできた作品だった。アシモフの別の作品とリンクしている面白さもあった。「さすがアシモフ! 読ませるねぇ」と、話の半ばからはラストに向けてぐいぐい引っぱられたのであ〜る。
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後から読み返してみると…
2003/05/12 08:38
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投稿者:kokusuda - この投稿者のレビュー一覧を見る
久しぶりに読み返したアシモフ老師の作品を紹介します。
古い作品なんですが、独特の味わいを持つ名作です。
文庫初版の解説にはミステリ・タッチとあります。
時間テーマSFとあります。
しかし、内容は時代を飛び越えて愛し合う恋愛がテーマです。
詳しい設定を書くとネタバレになってしまいます。
パラドックスも言及されているので構成は複雑です。
しかし、主人公ハーランとノイエスの心情が切なく伝わります。
しかもアシモフ老師は単純に作品を書いただけではありません。
銀河帝国興亡史3部作を書いた後「鋼鉄都市」を書きました。
次に書いたのが、この作品です。
老師の脳内では常にアイデアが渦巻いていたんではないでしょうか?
今になって再読すると、ほとんどの作品が連携しているのが分かります。
最初に読んだ時は気づきませんでした。
あんなアイデアやこんな設定があの!作品に…
表紙にヒントがあったのに…
SFに限らず文芸作品は隠喩や暗喩、ダブルミーニング
(日本語で何だっけ?)で記される作品が多くあります。
特に名作といわれる作品は複雑な構成になっていて、
読者に相応の知識と能力を要求するのです。
深町眞理子女史の訳は女性らしい繊細な情感が溢れています。
ぜひ、読んでみてください。
原書でも読んでみても面白いですよ。
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アシモフ恐るべし
2002/07/19 01:35
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投稿者:トリフィド - この投稿者のレビュー一覧を見る
この本、だいぶ前に手に入れていたものの、「もう古いしぃ」など
と思って長いこと積ん読状態に置いていたのです。ところがある時、
ふと最初のページを開いてちらっと見てみたら……はい、読み終え
るまで、本を置くことができませんでした(^◇^;)。
巻頭早々、なにやら謎めいた道具立てが登場し、異様な舞台設定が
明かされと、読者を惹き付ける構成はさすがだ。あなたたち何者?
なぜそうなっているの? どういうこと? と、尽きせぬ疑問に次へ次
へとページをめくってしまうのである。いやはや面白かった。
巨匠アシモフの唯一の時間テーマのSF長篇だとのこと。しかしとん
でもないところで例のアレと結び付いていたりして仰天である。
SF者なら、やはりこれは読んでおかないと。傑作です。
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時間もの。ものすごく面白い。
パラドックスネタあり、未来、現代、超未来の話に及び、さらにそこにかかわる人間のドラマと恋愛。
話で世界も人も、窮地に立たされ、挽回し、めまぐるしく変わっていく。
一言ではとても言い表せないほどの大作。
俺が今まで読んだ時間物の中では、過去最高に面白かった。
永遠の終りというタイトルがぴったりな話ということに、最後の最後で気がついた。
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そうか画像がないのか…。
ま、中古で買ったしな。
頭がこんがらがりそうでしたが、何とか。
主人公が好みよりちょっと感情的すぎましたが。
私がハードSFや本格ミステリが好きなのは、
謎解きや宇宙への夢だけではなく、
登場人物に冷静さが必要とされるからかもしれない。
一時に複数の現実が存在するという概念が
21世紀の地球上にへばりついている私にはイメージを思い描くことができませんが、
今が21世紀であることに実はちょっと感慨深い20世紀ガールの私です。
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ちょっと時間を飛ぶ、という都合上、
若干表現が難解かな。
でもどえらいって言うわけじゃないのでご安心を。
そしておなじみのラブロマンスもついています。
しかしそれはハーランにとっては
それはタブーなのであったのです…
最後のほうには、
悪夢といえる事実も出てきます。
そう、タブーを犯した結果
起きてしまう最悪の事実…
タイムとラベルはいつか
できたら面白いことでしょう。
しかし「時間」は操ると
とんでもないことも起こるわけで…
考えさせられますね。
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時間が管理された世界。
過去に遡り、「悪」とされることを消して作り直された、現在・未来。
その結果の衰退。
タイムパラドックスもの、かと思われる。
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誰が首謀者だ?というミステリー要素が強くなってからが速かったです。大きすぎる賭けに出た彼女には驚きました。
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初アシモフ。
最初はかたくて、進みにくかったけど、半分以降からが止められなくなった。
多数現実があるという前提と、それに「矯正」をかける組織。タイムマシンがあるからこそ、時間を超えて色々な現実がみられるし、色々な世紀の人々がひとつの組織をなすという大胆な発想も可能となっている。
時間という概念を空間のように、取り扱っているの感覚がすごい。
(それでいて、時間はやはり時間というどんでん返しが最後に待っている)
また、多くの未来物が、基本現代の感覚を基盤にしている作品がほとんどの中で、時場という三次元物質でない概念が多く散見されるのが面白い。
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過保護の功罪
未来社会。未来人の一部は《永遠人》となって時空を駆け巡り、《時間人》の現実を微修正することでそれに続く未来を改変し、人類を核による破滅から守っている。
主人公は《永遠人》。しかし、ある《時間人》を愛することにより、世界全体の時間の歯車が狂ってくるというのが表向きの筋書き。
設定として、時間を旅することを可能にしたのは過去のとある人物の発見がきっかけとなっている。しかし、その発見は未来から過去へと旅した《永遠人》その人によるものだったという展開になる。物語は、その《永遠人》が過去に旅する少し前からはじまる。
物語における「現在」及びそれに続く「未来」があるということは、《永遠人》が無事に過去へと旅立ったことを示す。しかし、過去へ旅立つのは物語における「現在」である。
もし旅立ちが阻害されたら「現在」や「未来」はなくなるのか。基本的なタイムパラドックスのテーマが見えてくる。そしてこのテーマで物語が進むと思ったら大違い。タイムパラドックスものと考えると大いにがっかりする。また、愛だのなんだのという話と期待するとまた裏切られる。
この物語は、アシモフのスペース・オペラのプロローグである。アシモフは過去の修正による理想的な未来創造を否定する。物語はラストになってスパートする。ミステリー調のタッチで進むのだが、あるとき突然に主人公が気づくことがある。「超観察者(注:いなえの表現)が存在する」
すなわち、よりはるかな未来から「《永遠人》に過去の修正をやめさせる計画」が進められていることを知るのである。そして、その役割を担っているのが《時間人》と思われていた、主人公が愛する女性である。
女性が属する「はるかな未来」では人類は絶滅している。宇宙への旅がことごとく失敗するからである。人類が宇宙に出るのが遅かったために、宇宙はすでに異星人が支配しているのである。あとちょっと早く人類が宇宙に出ていたら・・・。こう考えたはるかな未来人は、より過去の人類に試練を与え、歴史の修正を禁じ、宇宙への旅立ちを早めるためにその女性を送ったのであった。
<現実>から災厄を除こうとして、<永遠>は同時に勝利をも排除しているのです。人類が大いなる高みへのぼるもっとも効果的な方法は、おおいなる試練に遭遇することにこそあります。危険とたえざる不安定感のなかからこそ、人類を新たな、より高度の征服へと押し進める力が生まれます。
(中略)
人間が自らの力でよりきびしい、より高遠な解決策を見いだすのを、困難を回避するのではなく、それを克服することから生まれる真の解決策を見いだすのを、妨げているのだ。
女性の言葉である。過保護の功罪であろう。エンディングで示されるのだが、はるか未来から来た女性と《永遠人》たる主人公は過去の世界に居座り、《永遠人》と《時間人》が存在する未来を消去する。この結果、はるかな未来では人類は苦難を乗り越えて宇宙を支配するようになるという筋書きである。(もちろん、これはファウンデーションへと続く→だからプロローグなのだ)
面白い。タイムパラドックスに関するいくつかのほころびが見られるが、ミステリー部分がそれを補って余りある。
すべての種は環境に適合するように進化するというのがダーウィンの進化論の一つの捕らえ方である。そうだろうか? 少なくとも、異常なまでの生への執着から、環境に戦いを挑みつづけることで進化をする人類のような種はダーウィンでは説明できない。いずれ、宇宙を人類とは別の知的生命体が支配する頃になれば、人類はダーウィンの特殊進化論と分類されるのだろうと私は思う。
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ふと思い立って約20年ぶりの再読。タイムマシンSFの紛うことなき傑作。こんな傑作が絶版なんて勿体ない…。
「永遠(エタニティ)」という未来の歴史矯正機関を舞台にした物語で、「歴史は現実に矛盾を生じさせないように自己補修する」というアイデアのもとにアクロバティックなストーリーが展開するわけですが、伏線を一気に回収して、物語が壮大なエンディングを迎えるところのカタルシスが特筆ものです。本書がアシモフのロボットシリーズも銀河帝国シリーズのプロローグとしてつながっていくという仕掛けには胸が熱くなります。
【初読】1997年12月9日
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SFの祖とか タイムマシーン系テイルの大家とか、
そんな評判がある?アイザック・アシモフの傑作。
(ロシアっぽい名前だけどUSの作家)
タイムマシーンを駆使し、
時空を自由に移動するミッションに就く代償として、
identityの喪失に苦悩するハーラン。
なんだか 学生時に観たTwelve Monkeysを連想してしまう。
ガチガチのSFモノなんだけど、
とても真摯なラブストーリー
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http://shinshu.fm/MHz/67.61/archives/0000336627.html
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アシモフの長編唯一の時間物らしいけど、その理由が垣間見える(つまらないって意味じゃなく)。ミステリとして見ても『黒後家蜘蛛』『鋼鉄都市』『我はロボット』よりも完成度高い。アシモフ、それらしか読んでないけど。結果⇒ファウンデーションシリーズも読まないといけない。
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読み始めはSF独自の専門用語の連続で、何を言っているのかわからない。
わからないが、言葉のうまさや文章力、そして世界観で読ませてくる。そして読み進めた頃にはだいたいを把握している。さすが巨匠アシモフである。
主人公が属する<永遠>そしてタイトルが永遠の終り、であるからして、主人公が何かしらの反旗を翻し、自身の属する組織をどうにかするんだろうな、ということは明白だ。最終的な結末は個人的にはすばらしいシメであった。