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紙の本

自分をつくった故郷への深い愛

2000/10/27 16:08

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投稿者:長崎夏海 - この投稿者のレビュー一覧を見る

 北海道の農村。一九五〇年代末から六〇年代初頭を過ごした作者の自伝的作品。
 家族と暮らし、人とかかわり生きていく中で見てきたものの豊かさが、時代、風景とともに描かれている。
 こきつかわれる百姓を呪いながら過ごした日々をも含めた故郷への愛と、目の前の現実から出発する力強さが胸を打つ。
 りんご畑、とうきび畑。台風。嫌な仕事、楽しい仕事、りんごや小豆の選別、草刈り、とうきびもぎ……。働きながら聞く、目の見えない祖母の語り。開拓のころの話、じいさんの話、父が進駐軍の兵隊と英語で話し合って酒と酢をまちがえてわたした話、熊がぺかーんと鳴く話。
 農業の近代化。農業の未来について話し合う兄。百姓の女は、簡単に死なないと言い切り、持病を押して働く気丈な母。政治にも商いにも手を出して一家を離散させ、息子や娘たちの家を転々としている森谷の祖父。美しい言葉を並べた徒会の演説原稿を「ことばのあやばかりだ」ときっぱりと言い放つ祖父の言葉は重みがある。
 百姓に学問は必要ないといわれる中で、大学受験をめざす主人公。「なんでおれは百姓なんだ」と呪いながら、畑にでる。「家の仕事さぼってえらくなったって、どうせろくな人間にゃなれない」との言葉を心のどこかで認めながらもかたくなに拒み、具体のちっとも見えない自分の人生を求めていく。
 主人公は東京の大学に行き、母の死で故郷に戻る。しっかりと足をつけていきている妹たち。離農する決心をした父。
 故郷にむかって、人にむかって語る言葉=中身のある言葉を欲っする主人公の思いが、感動的だ。

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