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紙の本
女たちの今昔
2014/12/19 21:01
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投稿者:SlowBird - この投稿者のレビュー一覧を見る
「泥だらけの純情」は、吉永小百合と山口百恵主演で2度映画化され、この小説を含んだ作品集がその都度刊行、再版されたという本だ。収められているのは、直木賞受賞作「罪な女」、それから様々な階層の女性達の恋と、運命に翻弄される姿を描いた作品を集めている。
作者は純文学路線からこういう風俗ものに重心を移し、それからギャング、チンピラを題材にした作品へとテリトリーを広げていく、それらの報告性の交差点にあるのが「泥だらけの純情」になるだろう。
「罪な女」はさすがに泣ける。惚れた男と別れなきゃならない女の心境が切々としているが、ラストの一文「まるでそのまま、地の果てまでも歩いてどんどんいっちまいそうな勢いで。」これが凄みがあるではないか。一語、一文字までに、微妙な情感を意味付けられていて、伝法で、悲しくて、やけっぱちで、力強い、その心持ちがぴったり表現されているのは、まさに名手だ。
戦争も挟んで次々に男を取り替えて、そのたびに岡山、八王子、大阪、また東京と転々とする「女だけの業」、かつて生んだ娘を念願かなって宇都宮から引き取るが、その娘もまた自分に似た人生を歩む予感に、しみじみと感じ入る。
「姉妹の恋」平凡な家庭に育ち、工場勤めをする姉妹にとって、貧乏から抜け出すことと、結婚、恋愛がひとつながりである。それがこの時代のいたって普通であり、その普通の中の誰にでもある感情をギリギリと追い詰めるように描写することで、業深い女たちとまたひとつながりであることを感じさせる。
「白い百足虫」幼い頃から加虐的な性向があったという奇妙な女は、それがなんだか気が付くほど、今ほど情報は溢れていないし、ただ伸び伸びとその性質を開花させていく。そんなことほんとにあるのかと実に疑わしい気もするのだが、天然、素朴に成長していく描写にはさすがこの作者と思わせる説得力がある。
「薊のお網の歩いた道」蝮穫りの子に生まれ、幼い頃から人里へ物売りに生かされる少女、それが良心的な教育で平等思想を手に入れ、奉公に出してもらい、順々に世間を識っていき、押込み強盗の常習犯となる。この過程がまったく自然天然で、当人にとっては一本道であるように見える。とにかくもっとも凄絶な作品。
「泥だらけの純情」は、素は真っ直ぐだがよんどころなくチンピラに落ち着いている若者が、新宿の路地裏で不良学生に絡まれているお嬢様を助ける。その時に刺されたのが元で株を上げた男は、お嬢様にはやけにピチピチして見えたにせよ、彼がヤクの売人までしているとは思いもよらない。ただ父の赴任先のヨーロッパに連れて行かれることに、男も先の無い境遇への、それぞれに閉塞感を募らせて、その反動がちょうどシンクロする。生活苦にも図太く生きる女たちの生態とは対照的な、はかない若さや疾走感には、映画になるような純愛悲劇というよりは、時流の移る速度ばかりが、作者の目に焦点を結んでいることを示しているように見える。
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