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紙の本
すべてがなくなってしまったけれど
2001/08/31 14:28
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:もぐらもち - この投稿者のレビュー一覧を見る
地球人が火星に降り立つ。只それだけのことで滅びてしまった火星人達。火星探検隊が地球に帰還すると美しい火星の文明は破壊されてしまう。それを防ぐために火星探検隊の仲間を殺そうとする探検隊の一人。数少なくなった火星人と移民者である地球人との不思議な出会い…。
この物語には、血なまぐさい戦いの場面は一切ありません。あるのは、ただ、悲しみに包まれた淡い色彩です。日常のごたごたから離れ優しい気分になりたいとき、私はこの本を読み返しています。
紙の本
幻想がきらめく珠玉の名品
2009/02/18 15:01
5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:東の風 - この投稿者のレビュー一覧を見る
「1999年1月 ロケットの夏」から「2026年10月 百万年ピクニック」まで、火星を主題にした26の短篇が収められたオムニバス作品集。『黒いカーニバル』『刺青の男』『太陽の黄金の林檎』・・・・・・。レイ・ブラッドベリ(1920- )にはほかにも素敵な短編集がいくつもあるけれど、たった一冊だけと言われたら、わたしはこれを持ってきます。
まず、短篇の粒が揃っていますし、きらきらと輝く詩情、清冽なイメージが醸し出す透明な抒情が、もう本当に美しい。ダークなムードの作品もありますけれど、それもひっくるめて、宝石のような幻想のきらめきにうっとりさせられてしまいます。
どの短篇も素晴らしいなかで、格別のテイストにため息をついてしまった作品を三つ選ぶとしたら、「夜の邂逅」「イラ」「第二のアッシャー邸」でしょうか。殊に「夜の邂逅」は、珠玉の短篇と言っていい。私は、サンリオSF文庫のブラッドベリ短篇集『万華鏡』で初めて読んだのですが、胸がいっぱいになりましたね。数あるコンタクトもののなかでも、まず最高級の名品でしょう。
小笠原豊樹の訳文も、「名訳とはこういうのを言うのだろう」てくらい、見事なもの。素晴らしい読みごたえを堪能させられる一冊です。
紙の本
結晶としかいいようがない。
2002/02/05 22:16
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:カクタス - この投稿者のレビュー一覧を見る
この本はやはり形式(短編を接木したオムニバスとしう形式)としての目新しさが際立っている。今ならともかく1950年くらいに書かれた小説にしてはあまりに斬新過ぎるし、いま読み返しても全く色褪せない輝きがある。淡い輝きもあれば、燦然とした輝きもあり、さまざまなグラデーションのある輝きがコンパクトに詰まっているといえるかもしれない。ブラッドベリの小説は語るべきものというより、むしろ作者と一緒になって読みつつ共有したくなるような世界であり、まさに読んであげたくなる世界がそこにあるという感じなのだ。この作品を文学的、世界的に不滅の金字塔にした理由は、おそらくラストシーンにのあると思われるが、このシーンにしても計算して出来た賜物というより必然的に生まれたというしかないだろう。作者にとっても大発見だったのだろう。このラストによってブラッドベリの現在があるといっても過言ではないと思う。それくらい完璧なフィナーレが読者にひっそりと用意されている。ギフトのように。読書がどんな激安店の料理よりも比べようもないくらいお買い得であるということが、例えばこの名作によってわかるだろう。喩えは悪いけれど。青年ブラッドベリ30歳くらいの渾身の代表作をあなたにも是非読んで欲しいと心から思います。
紙の本
死んでしまった世界を眺めながら
2004/01/17 22:34
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:グリーンアイ - この投稿者のレビュー一覧を見る
レイ・ブラッドベリとの最初の出会いは、この「火星年代記」だった。続いて、「華氏451度」、「十月の国」、「RはロケットのR」、「何かが道をやってくる」、「メランコリイの妙薬」といった有名な作品群を読んだ。最初は感傷的な気分を誘発する彼の文章に幻惑されて気がつかなかった。いったい何が心に引っかかるのかが分からなかったのだ。
ブラッドベリという作家は生者と死者を繋ぐ物語しか書かないということに気がついた。生きている者も死んでいる者も彼の前では交錯して描かれる。美しいが、物悲しい。
「火星年代記」の序章としてロケットが地球から出発する様子が描かれる。少年の心を焼き焦がす希望に満ちた火星への旅立ち。「ロケットの夏」だ。「イラ」では火星人の夫婦の愛憎が描かれる。ブラッドベリイの火星人は地球人と心理構造が変わらない。外見も褐色の肌、黄色の目、髪の色以外はほとんど変わらない。愛憎の形も変わらないのだ。
火星では得体の知れぬ不安が高まり、地球人への精神的な拒絶反応が始まる。ヒステリーのように広がった不安は、テレパシーによる幻覚操作と地球の調査隊員の殺戮に繋がる。だが唐突に、水庖症で全滅した火星人のことが語られる。「月は今でも明かるいが」は印象的な短編だ。火星人のあまりにもあっけない最後。
地球の移民が始まり、時空連続体の捻れで生じた火星人との会合が、地球の病んだ精神の滅び行く様が「アッシャー家の崩壊」に模して語られる。火星の精霊が老人の干からびた心をひと撫でしたところで、恐ろしい現実に直面する。地球が失われてしまうのだ。「百万年ピクニック」は悲しい話だ。最後に水面に自分の顔を映す。そして、こう呟く。「君は火星人」と。
「火星年代記」は、何度読み返しても飽きることはないが、たまに死者の世界を読んでいるような気分になるときがある。それでも、勇気を持って何度か読み直してほしい作品だ。