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紙の本

ケーキがみんなの夢だったころ。甘さに込めた、人への思い。

2011/05/24 00:07

3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:きゃべつちょうちょ - この投稿者のレビュー一覧を見る

1984年「天国にいちばん近い島」の大ヒットで知られる著者、
森村桂は2004年に自らこの世を去っている。
この事実を最近知り、少なからずショックを受けた。

中学生、高校生のころ彼女の作品に夢中になり
角川文庫の著作は片端から讀み尽くした。
その中でいちばん好きだったのがこの本だった。
今回ずいぶん時を経て、またこの本にめぐり合った。

なんとも味のある装丁の絵は、久里洋二。
やはり森村桂の本にはこの人がいちばんぴったりくる。
13篇の洋菓子に寄せたエッセイは
どれもがほのかにあたたかく、かわいらしい。
特に好きな2篇を紹介する。

『幻の雪男クンに捧げた幻のクッキー』
ヒマラヤへ雪男を探しに行ったご主人に、桂さんはおやつを渡す。
彼女は、手焼きのクッキー一枚一枚にそれぞれ、
ご主人と一緒に登山する隊員の全員の名前を彫り込んだ。
家族と離れ、寒い雪山で食料が突きそうなときに、
そのクッキーは彼らの胃袋と心をじんわりと満たした。
彼らが全員無事に帰ってきたとき、桂さんは感謝の思いでいっぱいになり
あのとき焼いたクッキーにも、心の中でお礼を言った。
しかし、一枚だけ、食べてもらえなかったクッキーがあった。
それに彫ってあった名前は〈イエティ〉。そう、雪男のぶんだった。

『父の買ってくれた幻のケーキ』
桂さんの父親もまた作家であった。
仕事が激減してきた父を見て、いつ自殺するのではないかと
彼女は不安で眠れなかったそうだ。
そんな父にある日、放送局から仕事が入る。
桂さんもほっと胸をなでおろす。
仕事が決まってすぐに支払われた稿料で、父は買い物をしてきた。
「桂、ケーキだよ」と手渡された、不二コロンバンの箱。
父のお金は、高級品だったその洋菓子屋の12個のケーキに費やされた。
不安定な家計の事情を幼いときから知っていた娘は
喜びよりも失望をおぼえる。
父の態度を見てやさしく笑った母の顔にうちのめされる。
せっかくの収入をなぜ食費の足しにしないのか。
文句を言いながら口にしたケーキは、しかし美味しかった。
そして桂さんが19歳の時に父は亡くなり、
また時はながれて娘は父と同じように稿料を手にするようになる。
桂さんは、あのときの父のケーキに感謝できるようになった。
余裕のなかった娘の心に、精いっぱいの夢を与えてくれた父のケーキに。
そして彼女はお菓子を食べに外国へ行った話を書くようになり、思った。
美味しいケーキを食べるために、お金をたくさん使えるようになったが
あのときの父の稿料以上に価値のある使い方は、できない。
こんなにケーキが好きでも、生活に困っているときに
果たして父のように笑ってケーキを買ってくることができるだろうか、と。
あんなに美味しいケーキにはもうめぐり合えないかもしれない。
いまだに、あのときのケーキの味を探し続けているのかもしれない、と。

ユーモアをまじえながら明るくからりと素直に語られる文体。
でもここには、
なかなか見つけることのできないデリケートなものがある。
小説では時々見かけるが、エッセイで出会うのはむずかしいもの。
それは、疑うことを知らない子どものような無垢さだ。

彼女の死後、それまでの作品の解釈が変わってしまったような向きもあるが
これらの本に閉じ込められた彼女の魅力は永遠である。
チェーホフの「かわいい女」を思い出す。
傷ついても人を信じることをやめないオーレンカのように、
桂さんも、ずうっと何かを待ち続けていたのだろうか。

以前から、食べものについて書かれたエッセイ全般にとても弱く、
タイトルだけで惹きつけられ買ってしまうことがある。
考えてみると、この本を読んでからそうなったのかもしれない。


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