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紙の本

受験秀才のなれの果ての物語

2009/03/28 10:20

9人中、6人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:塩津計 - この投稿者のレビュー一覧を見る

戦前は中学受験が受験のスタートだった。義務教育は小学校までで、中学はもはや義務教育ではなかった。そして旧制中学、旧制高校、大学と進学するものは同世代の0.7%しかいなかった。その頃から「進学校」というのがあって、全国の教育熱心な家庭(とくにその母)は子供の成功を願って、今と変わらぬ奮闘を演じていた。諸君も番町ー麹町ー日比谷という東京首都圏の進学コースのことを聞いたことはあるだろう。戦前から進学校の低年齢化というのはあって、名門旧制第一高等学校に進学するためには名門東京府立一中(現東京都立日比谷高等学校)に入らねばならず、府立一中に進学するには麹町にある名門番町小学校か向うが丘にある誠之小学校、もしくは東京高等師範学校附属小学校(現筑波大学附属小学校)に入れるのが習わしであった。戦前から受験のための学習塾もあって、丸山真男は毎日曜日親の命令で塾にやむやむ通わされたし、越境入学というのもあって、息子のために実家の大宮を遠く離れて母子で文京区近辺に下宿するなどということも戦前からあったのである(変わんねえなあ)。

本書の主人公遠藤麟一朗は、その戦前の秀才中の秀才だった。そもそも親が麒麟の麟をとって名付けたという文字通りの「麒麟児」で、彼はその名に恥じず、小学校の段階から秀才街道を驀進する。今の世田谷の松原あたりから延々麹町の番町小学校に通ったというのだから、当時としては遠距離通学の部類だろう。父親は竹中工務店の技術者で、当時としては高額所得サラリーマンの部類に入ったようだ。何不自由しない少年期を過ごした大秀才は府立一中4年生の時に旧制一高に入学(いわゆる4修組。ちなみに丸山真男は4年生で受験して旧制一高を滑り「これであなたも秀才でないことがわかったわね」と小馬鹿にされている)。昔はいわゆる受験戦争は高校入試の段階で終了し、高校から大学への入学は、形式的な試験(英語もしくは独語、仏語など)はあるにはあったが、だいたいは受ければ受かるエスカレーターに近かった。だから高校に入ると生徒は皆解放感にひたり、受験とは関係ない「教養」の研鑚に走ったりしたのだ。そして遠藤は教養路線を走りすぎ、文学に淫してしまう。これが彼の人生の転落の始まりだ。

本書を読むと、彼とともに文学に淫した友人たちは、遠藤ほどは文学にのめりこまずバランスをとって、東京帝国大学法学部進学後も、ちゃんと法律の勉強をしている。法学部を首席の成績で卒業したいいだものは日本銀行に就職しているし、中村稔は司法試験に合格して弁護士の道へと進んでいる。すべてを落ちた遠藤のみが住友銀行に就職している。戦前は住友銀行に入るのも結構大変だったそうだから、まあ、悪くないコースなのかもしれないが遠藤はここでつまづく。ひとつには親の育て方にも問題があったようだ。戦後の復興景気で大儲けしていた竹中工務店勤務の父は住銀に就職した長男にいきなり今でいう数千万円?数億円?を渡し「これで人生の基礎を固めろ」などと能天気な能書きをたれている。子供の教育で一番大切なものは金銭感覚の教育だと私は思っている。これに失敗すると子どもの人生はかなりの確率で破綻する。遠藤の場合も案の上で、遠藤は父からもらった大枚の金をあっというまに蕩尽してしまう。株ですったのか、酒と女に消えたのか、その使い道は不明だ。友人に安易に貸して持ち逃げされそうになって、弟が苦労してこれを取り返したという話も出ている。金というのは自分で苦労して稼ぐことで身につくのであって、ひとから貰った金など、紙くず同然というのが人間の性である。

結婚生活も不幸だったようだ。見ず知らずのオンナとの結婚に中産階級の両親は猛反対。半狂乱になった母が息子を女のもとから奪い返しにやってきて、その母に遠藤が「うせろババア」と罵声を浴びせる地獄図も本書には出てくる。

夫婦仲も崩壊し、最後は胃潰瘍になって57歳で死ぬ。番町小学校、府立一中、旧制一高、東京帝大法学部で秀才の名を欲しいままにした受験秀才の末路は哀れだった。父親母親はさぞ悔しかったろう。辛かったろう。

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