紙の本
善意の華
2014/06/12 23:06
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投稿者:SlowBird - この投稿者のレビュー一覧を見る
フランス革命は当時ヨーロッパ諸国のインテリ層に衝撃を与えたが、それは自由を謳う思想への共鳴と、自国を思うナショナリズムの板挟みでいろいろ複雑だったようでもある。ゲーテも古典主義というくらいだからローマ帝国以後の国境なんて気にかけないのかと思ったら、フランス軍との衝突に従軍していた。
そして国境近くの村々から続々と避難民が移動していく。ある人は何もかも捨てた身で、ある一家は荷車に家財を山と積んで行く人もある。その通過する地域の人々もまた義侠心と慈悲で迎える。その中でとりわけ献身的な避難民の娘のことを、お嫁さんに欲しいという都合のいいことを言い出す輩も現れる。そういうこともあるでしょうね、しかしこの実話がゲーテは気に入ったのだそうだ。
破滅的な現実の中で、幸せになるべき人にそれが訪れること。人々がみな後押しし、祝福すること。そんな凡庸ではあるが、しかし非日常な風景自体を見られることが祝福なのだろう。その説得力はものすごい。
現代の目では、人の不幸に付け込んでるだけとも言えなくもないのだが、まったく抜け出せない泥沼のような境遇というものが、その時代にはあったのだ。特に女性一人の放浪者となれば、行く末は暗い。そういう不幸の構造よりは、そこから抜け出す歓喜がこの作品で謳われるところになっているわけだ。
戦争や差別に対する視点がまったくないのは現代人には奇異にさえ見えるのだが、それをすべて運命とみなし、それに抗するものとして、家族の絆や社会的繋がりの貴さを描く。それほどまでに戦禍や飢餓というものが日常的なものとして捉えられていたのだろうかと思う。ただしそれもナポレオン時代、戦争の悲劇があらゆる人々に及び、個人の善意や良心ではそれを避けることができなくなる暗黒時代になる寸前の、魂の最後の輝きだったということかもしれない。
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富裕な一市民の息子ヘルマンが、フランス革命の戦乱におわれた避難民の娘ドロテーアを妻に迎え、人生の秩序を築くにいたる顛末をうたった恋愛叙事詩。ドイツ小都会の香り高い市民生活と、世界という大劇場の動揺・転変とが同時に映しだされた珠玉の名篇であり、ゲーテ自身、終生愛誦してやまなかった作品。
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好きな小説を読むと満たされるー。ゲーテだったら『若きウェルテルの悩み』よりもこっちの方がお気に入りだな。
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ゲーテ(1749-1832)による恋愛叙事詩、1797年の作。
ゲーテ自身、この詩を生涯に渡り愛誦し続けたというが、この岩波版も読んでいてテンポの好い翻訳だと思う。下女ドロテーアの、自己に対しても他者に対しても凛として、優しさと確固たる人格を備えた姿が印象的だ。泉のほとりで再会した男女が二人で水を汲む場面は実に美しい。
以下のような科白に、現代にも通じる近代的な市民的感性が窺われる。
「授かったままに、我子をそだて、・・・、生まれつきを伸びさせてやるのが、親の務めです」(ヘルマンの母親) 「・・・、生のうちに生を完成させたいものです」(牧師)
本作品の背景には、フランス革命という同時代の世界史的大事件がある。フランス革命とその動乱について登場人物たちがしばしば語っており、当時の人々が大革命をどのように受け止めていたかが垣間見えて興味深い。
「・・・、私は往く、いま世界中のあらゆるものが揺れ動いて、何もかも離れ離れになるようだから。・・・。形を備えたこの世界が、混沌の闇に逆戻して、新しく作り直されるかと思うほど、何もかも揺れ動いている。お前の心が変わらずにいて、二人がいつかこの世の廃墟の上で巡り合うことがあったなら、その時こそお互いは、すでに作り直されて、運命に左右されぬ、自由な、生まれ変わった人間と成っていよう、・・・」(ドロテーアの嘗ての婚約者)
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2015/5/24読了。
ヘルマンが草食系すぎる。ドロテーアの完璧さが際立つ。なんていい女。
思ったほど物語に起伏がなくトントン拍子に進んでいった印象。
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フランス革命を背景とした「市民的叙事詩」。革命の戦乱に巻き込まれたライン地方からの避難民ドロテーアと裕福な家庭にそだった質朴なヘルマンとが出会い、互いにひと目で恋に落ち、家族や牧師から祝福を受けて結婚するに至るという実に幸福感に溢れる物語。しかしこのような恋愛、家庭の幸福を守る志操堅固な人という理想が、動乱に満ちた革命(もちろんフランス本国だけでなくライン地方も巻き込まれている)という像に対置されているという点で、偉大な反政治的政治叙事詩である、とも言えるだろう。
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ゲーテは明るい。朗々としている。その点が本当に好きだ。フランス革命の騒乱を背景にした叙事詩。ちょっと古風だが、リズミカルな訳文で読みやすかった。真面目な青年ヘルマンが、難民のドロテーアに恋をする。父親は最初反対するのだが、ドロテーアの本当の人柄を知った後に結婚を認める。ハッピー・エンドなので安心して読める。読んだ後は胸の中をそよ風が吹き抜けていくような心地になる。ゲーテが自分の作品の中でこれを一番愛していたことに納得。深読みもできる内容で、特に難民の苦しさは現在の中東の問題に通じるものがあった。