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1929年生まれの米山髙範氏は、東京工業大学の水野滋先生のもとで品質管理を学び、小西六写真工業で実践を積み、1994年にデミング賞本賞、1996年にWalter L. Hurd Executive Medal、1999年に勲三等旭日中綬章叙勲、ASQ Ishikawa Medal受賞という輝かしい経歴を持つ方です。
日本品質管理学会の会長にもなりましたし、日科技連の理事長も務めました。
そんなすごい人が、1964年に技術士を取った5年後の1969年、40歳の乗りにのった頃に書き上げたのがこの本です。
★★★
実は、JSTQBカンファレンスで講演することが決まったときに、「せっかく、海外の方もいらっしゃるイベントなんだからHAYST法のことを話すにしてもベースとして品質工学や日本的品質管理の話をいれたいなぁ」と思いました。
そこで、田口玄一を2冊と、石川馨と、そしてこの本を読みました。
そして、この本が一番じんとしみました。
★★★
この本の良いところの一つは、原点がわかるということです。
例えば、実験計画法。これは、フィッシャーがロザムステッドの農業試験場で小麦の生産をあげるための効率的な実験を考えたところからスタートしたと言われていますし、わたしもそう説明してきたのですが、、、。
たとえば、小麦の品種の中から最も収穫の多いものを選び出す実験をするために、小麦を植える面積を広げてゆきました。しかし、畑を広げれば広げるほど、土の性質とか日のあたり具合などがかわってきて、条件の違うものをゴチャマゼにしてしまう結果になります。しかも、たくさんの実験をやるためには長い時間がかかりますので、その間に天候がかわったり、作業者がかわったりして、しまいにはなにを調べているのかわからなくなってしまうのでした。
従来、たくさんの例を調べればなにかわかるという考え方があったのに、たくさんの例を調べるほど、実は正しい比較ができなくなることに気がついたのです。つまり、小麦の品種の良し悪しを見るには、小麦を植える畑の土質や日のあたり方といった環境条件の影響を、なんらかの方法でとり除かなくてはいけないと思いました。そこで彼は、小麦の収穫量のうち、たしかに小麦の品種がきいている部分と、畑の土質や日あたりが影響している部分とをわけられるようにすればよいと考えました。
私は、実験計画法の紹介の時に、「作物は収穫までに1年かかるので、毎年条件を変えるのではなく、畑を分割してそれぞれにうまい条件を振ってあげることで実験時間を短縮し、また、条件の振り方を工夫することでそれぞれの影響を解析できるようにしました」と説明してきましたが、それは本質ではなく、上に引用したように「小さい試料から結果を推測すること」を突きつめて考えていたところがフィッシャーの素晴らしいところなんだなぁと気づきました。
「品質管理がなぜ必要か」を原点から解きほぐしてくれます。
★★★
この本の二つ目に良い点は、とても平易な文章ということです。
先に引用したものもそうですが、大変読みやすい良い文章です。米山さんは落語が大好きだそうで、それも文���に反映されていて退屈しません。
また、数式は最小限で、それよりも実データを用いたグラフや表とユーモラスなイラストで理解を促す方法をとっています。
カメラの購入に対する市場調査を例に「買うときになにいに気をつけますか、2つあげてください」というアンケート結果を表にまとめているのですが、こうして整理すると、“機能性能”と“価格”の組合せが断然多いことが一目瞭然です。
何かで使ってみたくなりました。
★★★
そして、この本の三つ目に良い点は、QCの本質を伝えているところです。
言葉にしてはこう書いてあります。
QCの本質は、“消費者の要求にこたえ、かつ、有用性のある商品を安定して供給する”ことでした。高い技術力による商品を開発するにしても、潜在需要を掘り起こすにしても、また、安定した品質をつくり出す管理システムを確立するにしても、それらの行動の基本を忘れてはなりません。
今一度、かみしめたい言葉ですね。