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紙の本

タルホマニアのひとりごと

2003/11/11 22:57

5人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:脇博道 - この投稿者のレビュー一覧を見る

イナガキタルホ。コメットタルホ。タルホにはまると抜けだせないので
ある。聖と俗のあいだを自在に行き来したこのコズミックな作家の硬質
な文体で書かれた本を読んでいると、都会のネオンが遥か彼方の宇宙の
星の輝きとシンクロして、いてもたってもいられなくなるのであるがま
だまだ空は明るいぞ、お楽しみはこれからだ、といわんばかりに次から
次へと珠玉のイメージが頻出してくるのであるが、その短編も、氏自身
がいくつもいくつもバージョンを変えて書いているので、夜通し楽しみ
は尽きないのであるし、開陳される宇宙論たるや奇妙奇天烈摩訶不思議
であり、正統派宇宙論側から見れば噴飯ものかもしれぬがそのようなお
固い事はこの際抜きにして氏と共に満天の星きらめく宇宙におけるロバ
チェフスキー空間の謎を解読するべく夜空を観に天文台に行くのもいい
し(そこでは氏の友人たる博士がさながらクラインの壺のような紡錘形
の図を書いて宇宙空間の神秘について語ってくれるでしょう)トーアロ
ードのショウウィンドウの中にひそかに陳列されている星を封じ込めた
物体を探しにいくのも一夜の楽しみかもしれないし、スパークした路面
電車のパンタグラフからこぼれた地上の星が拾える幸運にも巡りあえる
かもしれないのである。

とはいうものの一方で、タルホ氏は過剰なるストイシズムゆえにジャン
クで壮絶な人生体験も持っているのであるから手ごわい。彌勒、あるい
は東京きらきら日記などを読むとそのすさまじさに驚くのであるがさす
がは宇宙を味方とするタルホ氏のこと、微塵の暗さも感じさせずに読者
を陶然とさせるのであるが、同時にとても真似は出来ないその徹底ぶり
には一寸溜息をつかざるを得ないのである、その辺の消息に関しては本
書には収録されてはいないので安心して読んで頂きたいのであるが、一
千一秒物語のみがタルホ氏の世界のすべてと誤解されては、この恐るべ
き多様な側面を持つ作家のほんの一面のみしか見出せなくなってしまう
という杞憂からあえて書いたのである。それにしてもこの聖と俗の混在
したイメージを書き分けた作家は世界を見渡しても空前絶後ではあるま
いかなどという戯言をつい書いてしまいたくなるのもタルホマニアの困
った性癖である。

未来派、ダダイズム、ロシア・アヴァンギャルドを敬愛したタルホ氏で
はあるが、その選別眼はきびしい。ひとことでいってしまえば、柔らか
いイメージのもの、動きが感じられないもの、懐古趣味が少しでも感じ
られるもの、湿気が感じられるもの、などはすべてNO!エッジがきい
ていて未来が感じられて徹底的に乾いていて運動性に満ちていて(氏が
無類の飛行機マニアであったことは有名であるしライト兄弟にささげる
書物もある)そしてなにより宇宙が感じられるものはすべて良し、とい
う潔癖性の魅力がタルホマニアを捉えて止まないゆえんであろう。そし
てタルホ氏がなによりも好んだこと。それは、森羅万象における、はか
なさ、である。

本書の中央には、直径7ミリの穴があいている。勿論製本ミスではない。
これこそが広大無辺なタルホ世界への入り口ではあるまいか? あるいは
はかなさ、の象徴であるかもしれない。ぜひ本書を手に取り、読むこと
によって、この穴の持つ意味を感じて頂きたいと切に願う次第である。

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2006/02/23 13:21

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2012/03/09 10:16

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2009/03/19 14:55

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2012/01/31 00:02

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2013/03/31 23:52

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2014/09/18 22:22

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