- 現在お取り扱いが
できません - ほしい本に追加する
- 予約購入について
-
- 「予約購入する」をクリックすると予約が完了します。
- ご予約いただいた商品は発売日にダウンロード可能となります。
- ご購入金額は、発売日にお客様のクレジットカードにご請求されます。
- 商品の発売日は変更となる可能性がございますので、予めご了承ください。
1 件中 1 件~ 1 件を表示 |
紙の本
現代美少女巌窟王
2009/06/20 10:47
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:SlowBird - この投稿者のレビュー一覧を見る
作者自身が「現代の巌窟王」を書こうとしたと言う通り、スピード感溢れる復讐譚となっている。命がけになって相手を破滅させるような強烈な復讐心というものを現代に置き換えて、かつ古典的テーマの単なる焼き直しにならないように、1970年代当時の現代性を設定に盛り込んでいる。主人公が少女なのも、連載誌が当時は既に芸能誌となっていた「週刊明星」であったことも理由だろうが、当時anan、non-noといった雑誌が一世を風靡し、元気な現代少女が世を闊歩しだしたことも、作者をその気にさせたかもしれない。
ストーリーは財閥の創設者が愛人に子供を産ませるところから始まり、秘かにそれを知った本妻は嫉妬心の挙げ句に産科医を買収するのだが、産まれたのはなんと男女の双子で、医師の機転により双子は生き別れとなってそれぞれ成長する。そして遺産相続を巡る策謀により、女の子の方が消されかかる羽目になる。いささか大時代的な展開ではあるが、少女が芸能界にスカウトされたり、遺産代わりに株式を譲渡したり、旧日本軍の隠し財宝やら、山林を売って大富豪、そして入院させられたら二度と出られない精神病院など、時代を彩る題材がふんだんに盛り込まれている。とはいえ実は、そうとうな部分は作者本来のオヤジ的発想、脂ぎった、ヤニ臭いネタがギッシリだったりする。そういう魑魅魍魎の跋扈する濁流の中で、生き別れの姉弟が苦難のに遭いながら泳ぎ渡っていくのが、ある種清々しいかもしれない。特に主人公の少女は本妻側にその存在を知られているために、まさに非道の仕打ちをうけることになり、そこから復讐劇が始まる。
無数のギミックが次から次へと展開していくスピードが凄まじい。持ちネタ全部注ぎ込んじゃいましたといった風で、ありとあらゆる卑怯、猥雑、悲劇の連続に、後半には負けじとばかりに容赦ない、そして自らさえも顧みない苛烈な反撃のアイデアが繰り出される。
ところで、本作連載中の1975年に梶山は取材先の香港で客死する。結末は創作メモを頼りに夫人が書き上げたものだという。その最終章のタイトルは、当時構想していたというライフワークからとった「積乱雲の彼方」。まだ45歳で当人はこれが遺作だなどと意識していたわけはないだろうが、ライフワーク執筆に向けてそれまでのエンターテイメント路線の集大成のつもりだったのではないかと思えるほど、平和で希望に溢れていたはずの高度成長期社会の醜い裏側が満載の密度の濃さで、がっつり満腹。
1 件中 1 件~ 1 件を表示 |