紙の本
シリーズ白眉の傑作
2002/02/08 19:08
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ひろぐう - この投稿者のレビュー一覧を見る
こんなにラストがスッキリとした話は久しぶりだ。ストーリーそのものが、それほど飛び抜けて素晴らしいというわけではないが、『大穴』の続編として、随所でソフィスティケート&パワーアップされている。たとえば悪役。そのどぎつさは相変わらずだが、リアリティがあって漫画的な印象は少ない(えげつない行為はプロに任せることにしたことが奏効)。
それに、サブストーリーの詐欺事件での元妻との葛藤をからませる手際や、気球レースへの飛び入りで追跡を逃れる場面での、絵画的なイマジネーションを喚起させて忘れられない印象を植え付けるテクニックなど、心憎いばかりの技量だ。
特に主人公のシッド・ハーレーのくっきりとした人物造型が素晴らしい。現実的には彼ほどの自尊心や克己心を持つことは裏腹で、一歩間違えれば不寛容で思い上がった人間になる危険もあるのだが、(冒険)物語のヒーローとしては、これくらい輪郭の太い人物を描いてほしいと思う。
投稿元:
レビューを見る
ディック・フランシスでハードボイルドと言えるのはこの小説だけでは。別にハードボイルドの人じゃないけど。
投稿元:
レビューを見る
片腕探偵シッド・ハレーが競馬界の不正に立ち向かう中で恐怖に打ち勝とうと奮闘する様にやられる。特に最後の一行!自分にとってすべての小説で最高のラストシーン!!
投稿元:
レビューを見る
18
シッド・ハレー再登場
アメリカ探偵作家クラブ賞
英国推理作家協会賞受賞作
傑作です。
詐欺に巻き込まれた元妻を救うために頑張るシッドに、ジョッキイ倶楽部の保安部長からも依頼が入る。
襲われ、傷つけられたシッドとその傷に気がついた元妻の会話が白眉です。
「…あなたの自分本位な考え方、頑固さ。勝つための決意勝つためなら、あなたはどんなことでもするわ。あなたはつねに勝たなければ気がすまないのよ。すごく厳しいわ。自分に対して厳しい。自分に対して冷酷だわ。わたしはそれが我慢できなかったのよ。誰だって我慢できないわ。女は慰めを求めて自分のところのくる男が必要なのよ。お前が必要だ、助けてくれ、慰めてくれ、接吻で悩みをふりはらってくれ。でもあなたは……あなたにはそれができない。あなたはいつも壁を造って、今と同じように、無言のうちに自分のトラブルに対処する。それに、どこも痛くないといっても無駄よ。わたしはいやというほど見てるんだから。あなたは、自分の首の傾きを隠すことはできない、今回はとてもひどいことがわたしには一目で判るわ。でも、あなたは絶対にいわない、そうでしょう、ジェニィ、抱いてくれ、助けてくれ、おれは泣きたいんだ、と?」
言葉を切って、その後に続いた沈黙の中でわずかに手を動かして悲しそうな身振りをした。
「判った?あなたはいえない、そうでしょう?」
長い沈黙の後で、私がいった、「いえない」
―――
「さよなら、シッド」
「さよなら」私は、ジェニィ、抱いてくれ、助けてくれ、俺はなきたいんだ、といいたかった――しかし、いえなかった。」
投稿元:
レビューを見る
シッド・ハレー物第2作。
フランシスの作品は競馬シリーズといっても基本的には単発で、すべて一作ごとに完結しています。主人公の中で、3作描かれているのは彼だけ。
それだけ登場した時の印象が強く、意志の強さや勘の良さは典型的でもあります。性格は冷静なようでも内面は激しく、孤独がちなほうで、それだけにヒーローっぽいんですね。
元は競馬のトップ騎手で、落馬事故で手を痛め、深い心の傷を負っていました。前回の事件で精神的には立ち直ったものの、手の方はついに切断していますが、最先端の義手を試している時期ですね。
離婚した妻との葛藤とうらはらに、義父とは離婚後も親しく、最初は娘にふさわしくない相手と全く存在価値を認めなかった義父との関係が深まっていくのも面白いところ。
1981年、MWA最優秀長篇賞受賞作。
投稿元:
レビューを見る
元花形ジョッキーだったシッド・ハレー。
事故で左腕を失い義肢となり、今は競馬界の不正を暴く調査員として生計を立てている。
新たな依頼でも核心に迫っていたのだが、「残った利腕を吹き飛ばす」という脅迫に屈し、言われるがまま逃避する。
そこに元妻ジェニーも絡み、物語は進行していく。
徐々にこの選択が残された腕より、大事なものを失う事に気が付いていく。
「自分が永遠に対応できない、耐えられないこと・・・それは自己蔑視である」(T_T)(T_T)(T_T)
普通の人の自己破壊・自己蔑視からの再生のストーリー。
必見です。
投稿元:
レビューを見る
ディック・フランシスの小説にはかつては同じ主人公が出てこないことになっていたが、シッド・ハレーだけが例外だった。初期の作品『大穴』に出てきたあと、この『利腕』に登場した。
その後、キット・フィールディング君が二作続けて登場したが、そのあと『好敵手』でシッド君が三度目の登場となり、やはりフランシス作品のなかの存在感ナンバー1の座を印象付けた。で、このあと、最愛の妻を亡くして一度は引退したフランシスが息子の応援を得て書いた『再起』も、やはり一番人気のシッド君に登場してもらったので、シッド君は都合四回出てきたことになる。
さて、4回の登場中、もっとも好きなのがやっぱり『利腕』。
初回に登場したとき、すでに競馬の事故で右腕を怪我していたシッドだけどそれをものとせずにかっこいいところを見せつけた。
ところが、この作品では悪者に追い詰められて、その怪我した右腕をさらに痛めつけられてしまう。
さしもの好漢、シッド・ハレーも、右腕を失うかもしれない恐怖には勝てず、一度は悪者に屈してしまうのだ。
このへんの心理描写はじつに巧み。
読んでいるこちらのハートが試されているかのようだ。
フランシスの描く主人公はつねに冷静沈着、誇りを重んじ、それを貫く強さを持っている。
しかし、そんな主人公の心のなかで起きている葛藤を見事に描いて、彼らの本当の姿を浮かび上がらせることに成功したのがこの作品が頭ひとつ飛びぬけているポイントだ。
もうひとつ『度胸』という作品も同様のテーマで、「度胸とは何か?自尊心とは何か?」ということを描いている。
それでいつもどっちがどっちだったかわかんなくなっちゃう。
投稿元:
レビューを見る
調査員になった元ジョッキー、義手のシド・ハーレーの元に依頼がよせられる。本命馬が続々と敗れていく。彼の元妻が罪を被せられ詐欺で訴えられそうだ。レースで不正が行われているのではと考える馬主。調べていく内に彼と相棒のチコは脅迫と暴力の中に巻き込まれていく。
おもしろいんだけど重いんだよね。このシリーズって。人間の根底にある悪意があばかれていくというか。
投稿元:
レビューを見る
競馬シリーズっていう名前に腰が引けてしまう人もいるかもしれないけれど、競馬にまったく興味のない人も楽しめる。食わず嫌いは損だっていう代表みたいな本だ。
ミステリに分類されるから、事件があって探偵がいて、犯人を突き止めるって話なわけだけど、この本の魅力はそんなことにはない(もちろん推理小説としても水準以上の出来だけど)。作者が描き出す人物が、ただひたすらかっこいいのだ。ただかっこいいと言っても、スーパーマン的なものではない。自分の弱さに悩み、傷つきながらそれを克服していく姿が、圧倒的に感動なのだ。
事故で片腕を失った主人公が、ねばり強く犯人を追いつめていく物語だけど、特にラストシーン、最後の一行にうならされる。ミステリなんて好きじゃないっていう人にこそ、読んで欲しいと思う本だ。
投稿元:
レビューを見る
再読了。
ディック・フランシス作品の初心者は、この作品から入らない方が良い。
今作の評判がいかに高かろうとも、せめて4作目の「大穴」を読み終えてから手を出す方が良い。
これは再生の物語である。ペシャンコに破壊された男が、雄々しく立ち上がる物語である。震えながら、怯えながら、汗まみれ傷まみれで掴む自尊心の物語である。
読めば気合が入る。そんな本はなかなか無いが、これはそんな稀有な一冊だと思う。
投稿元:
レビューを見る
片手の元騎手探偵シッド・ハレー。
大規模な不正行為や巧妙な詐欺事件を調査する彼を待ち構えるは恐るべき脅迫だった。
いや、もうラストかっこよすぎ!
たまらん!
投稿元:
レビューを見る
今作の主人公は、ディック・フランシス競馬シリーズの中では珍しく2回目登場のシッド・ハレー。
前作で生ける屍だった彼は絶望の中から自分を取り戻し、今作ではフリーの敏腕調査員となっている。とはいえ、やはり輝かしい騎手時代への未練は捨てきれないようだ。
次々とレース生命を絶たれていく競走馬&競走馬のシンジケートに関する不正を追う中で、凶暴な悪党から壮絶な脅迫を受けるハレー。本作はそんなハレーの恐怖を軸にストーリーが展開していく。
なぜタイトルが「利腕」なのかを理解できた時、ページを読み進める手が進まなくなるほど恐ろしかった。
なんと、本作では不屈のヒーロー・ハレーが恐怖におののき悪党から一度は尻尾を巻いて逃亡してしまうのだ。
屈辱、自己憐憫、罪悪感、精神的基盤の崩壊…。前作よりも深い奈落の底からいかにしてハレーが這い上がってくるのかが、本作の見どころである。
「自分が永遠に対応できない、耐えられないこと…ようやく、鮮明、確実に理解できた…それは自己蔑視である。」
この決意とともにハレーが完全復活する瞬間は、まさに鳥肌もの。
他の登場人物も細やかに描写されており、陽気で頼りになる相棒チコがいい味を出しているのは勿論、これまでハレーに辛く当たってきた元妻ジェニイの知られざる本音や、ジェニイの父チャールズとの変わらない友情など実に味わい深い。
ちなみに、結末はあのジェフリー・ディーヴァーも真っ青のどんでん返し!!
この発想はなかった。改めてフランシスの技量に脱帽。ラスト1ページまで気を抜けず、手に汗握る素晴らしい作品であった。
投稿元:
レビューを見る
何度目かわからないけどまた読了。本当に素晴らしい。
銀の霧雨が細く降るラストシーンのうつくしさは、何度読んでも胸が熱くなる。
投稿元:
レビューを見る
「大穴」より先にこの「利腕」から読んでも面白かった! 身に迫る恐怖に怯えつつも、決して悪にひれ伏すことの無いハレー。小説の中ではずっと彼の姿を追うことができるので、彼の孤独がわかるんですが、もし自分が彼の奥さんだったら…やっぱり一緒にいるのは難しいかも?
投稿元:
レビューを見る
シッドハレーは 武器や武術を使うわけでもないが、悪人を追い詰めていく。ヒーローではないし、口には出さないだけで 結構 ビビリ なところも共感できる
「大穴」「敵手」も読んでみたい