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情報は一般に二つの要素に分けて考えられる。知っているか、知らないか。経験済みか、初めてか。普通の事柄か、驚きなのか。つまり既知と未知で構成されている。コミュニケーションではこの2つをどう使うか、組み合わせるかが課題になってくる。例えば、既知で受け手の事前了承を取りつけて未知を届けるのか。未知で意表をつきその隙に既知を投げ込むのか
コミュニケーションは主として「既知」を軸に展開される。送り手、作り手の課題はそれらの既知をいかに効果的に利用するか、どう組み合わせて「未知」的エネルギーに迫るか
「既知」を平凡な事柄をじっくり見直す。言い換えてみる、置き換えてみる、喩えてみる。対象に新しい視点、別の視点を与えてみる。実は異質は同質に近いところに潜んでいる。「既知」を相対化させることによって意外に「未知」の領域に潜入することができる
人を立ち止まらせるのはやはり予想できない未知の事柄への憧れ、期待感。その未知を自分の想像力で推理、解明したくなる素直な気持ち。葛藤、対立、そこに生み出されるエネルギーこそが人を感情移入に誘う
広告は「思い当たる」が基本。受け手が「知っている」「分かる」「経験・感覚を共有できる」と反応してくれることが前提。激しく感情移入させるには屈折した「思い当たる」が必要。「既知」の「葛藤」が条件。受け手の立場として、情報が目の前にあったとき、一瞬のうちに沸き起こる疑問そして好奇、それにつづく困惑や緊張、微笑、理解、納得そして開放。「葛藤」のコミュニケーションは受け手が送り手へメッセージの核心に歩み寄るドラマ
日常語の既知があり、忘れられかけている既知がある。すでに意識化に入ったものもある。それらをタイムリーに汲み上げて受け手を葛藤的に覚醒するのが作り手の想像力。受け手はうまく言い当てられると見過ごしていた既知の言葉に新たな思いを抱く
「古いものが懐かしい」と言われても通過する。当然のことをそのまま表現するだけでは刺激レベルには至らない。「懐かしいものが新しい」となれば受け手は立ち止まるかも知れない。未知的な空気がそこに漂っているから。「高性能はやさしい」と語られたらやはり受け手はその意図を探ろうとする。ある種の対立が生む波動を肌で感じるから。「テレビばっかり見てなさい」と命じられたら、どうしようどうしようと混乱しながら自己の平衡感覚を取り戻そうと努力するに違いない
言葉の対比、意味の葛藤、文脈の意図的な対立・混乱を駆使して受け手を刺激する
異質の組み合わせ、対立で受け手の関心を惹く。受け手はその矛盾を自分なりに解明しないと満足しない気分になる。ひとときの内部葛藤があり、やがてそれなりの納得・理解が得られる
未知の余韻の中で既知を送り込む。 ex.トヨタクレスタ 山崎努
「既知」の部分は送り手が用意した最大のメッセージであり、「未知」の余韻の中で強烈に送り込まれるべく用意されている
「未知」の宝庫は自分の言葉、自らの技の中にある
「既知」と「未知」の各要素をいかに周到に配列し、組み合わせ、または交換させるか。対比、対立によって受け手に強く感情移入を迫ることが常に基本的な課題
アメリカ広告は切り口、日本の広告は語り口
自分の生活実感・日常感覚を客観的に見つめる。自分の願望や志向をどれだけ冷めた目で観察できるかどうか。自分で自分の思いを第3者に普遍的にすくいあげられるか、代弁できるか?
モノや記号のイメージで人はいままで自分のアイデンティティを獲得しようとしてきた。それが難しくなった現在、モノに対してプロセスをエンジョイするのか、そのディティールにのめり込むのか、その素朴な物神性に感動しようとするのか。どうやらモノは目的でなく、あくまで自己を表現するための単なる手段ということのようだ