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「スワッグ」の主人公、スティックの、7年後のストーリー。「スワッグ」で武装強盗を働き逮捕されたスティックは、無事7年の刑期を終えて、離婚した妻と娘が暮らすフロリダにやってくる。しかしそこで麻薬取引のトラブルに巻き込まれて友人を殺害された後、ひょんなことから金持ちの運転手として雇われて、友人を殺害した麻薬売人に接触するチャンスが生まれる…。
「犯罪小説の巨匠」と称されているエルモア・レナードだけど、その作風は別にドロドロした感じではなく、どっちかというと登場人物はみんな飄々としていて食えない雰囲気。会話がとぼけていて、ストーリー展開もちょっとシニカルなのだが、この作品はもう、そういったレナード節が満載。「スワッグ」でもスティックはカッコよかったけど、しょせん35歳の若造でした…って感じで、本作では男前にさらに磨きがかかっている。ストーリーの結末もブラックで、笑っちゃいました。
レナードは今年80歳。日本語に翻訳されている作品の舞台の多くが、70年代、80年代なのは当然なのだが、古さを感じさせない。映画と車と音楽が好きなら、レナード作品はオススメです。
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レナードが爆発的人気を博す直前の1983発表作。綿密なプロットよりも、イキのいい会話を主体に小悪党どもを筆の赴くままに描いており、小気味よい作風が本作ではより強められた感じだ。麻薬と金を巡る登場人物らの言動は極めて不真面目でいい加減なのだが、一歩間違えれば己の死に直結するギリギリのやり取りが、返ってリアルな情景を生み出している。
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本作はレナード作品の中でも特に先の読めない作品だった。作者が行き当たりばったりで書いているとしか思えないほど、主人公のスティックが縦横無尽に動き回る。
一応、本作は『スワッグ』で銀行強盗として登場したスティックのその後を描いた続編。1983年に発表された本書は油が乗り切った時期に書かれたこともあって、レナード特有の流れるような文章、一緒に会話をしているかのような生きた台詞がページのすみずみまでに行き渡っている。
いつしかスティックを始め、投資家のバリー、暗黒街のボス、チャッキー、不遜な殺し屋エディ・モーク、投資アドヴァイザーで美人のカイル、はたまた登場人物表に載っていない端役のバーテン、ボビー―このキャラクターがなぜ一覧表に無いのか不思議。かなり魅力を感じる美人バーテンダーである―までもがイメージを伴って、眼の前に迫ってくる。
しかし、前にも書いたように本作の特徴はスティックの行動そのものにあるといっていい。読者はスティックが何を考えているのかに興味を持ちながら読み進むしかないのだ。
最初はムショ上がりの冴えない男だったのが、死地から逃げ延びた事で逆に己自身を見つめなおし、自動車泥棒を行おうとしたところで、バリーと知り合い、運転手に落ち着き、そこで株投資の世界に興味を持ち始めたかと思うと、バリーの付き合う愛人、妻、そして投資アドヴァイザーのカイルの3人と寝てしまうのだ。
更にはバリーと主従の関係が逆転し、そしてバリーが企画した新作映画への融資をだしにチャッキーを獲物にして一大詐欺を起こそうとするのだ。
こんな物語に最後きちんとオチがつくのだからものすごい。
こういう話を読むとレナードが作ったのではなく、あたかもそういう話が実際にあってそれをレナードが小説にしたとしか思えない、それほど「作っていない」感じがするのだ。
しかし、あえて苦言を呈するならば、やはり行き当たりばったりで書いているなあという気持ちは払拭できない。以前とは違い、さすがに色々読んできている現在では終わりよければ全て良しという手には乗らないぞという捻くれた思いが強く残るのだ。
こういう小説もいいだろ?という声も聞こえるが、他にレナードの素晴らしい作品を知っているだけに、ここは苦言を呈して星3ツに留めよう。