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今まで戦記関係の書は、なぜか頁を繰ることを躊躇っていた。
戦後教育のおかげで、ワタクシの心には人並みに平和思想が根を張っていて、戦争は愚かで悲惨なことだと反射的に感じるようになっている。しかし恥ずかしながら、その実情についてはまるきり知らないに等しい。
本書は、北ボルネオに当時配置された一万人もの兵力が、終戦前のわずか半年でいかに力尽きていったかを生存者の証言などをもとに構成している。
驚くのはその大半が実際には敵兵と砲火を交えるに至らず、軍部の浅はかで軽率な戦略のせいで熱帯の密林を東へ西へと行軍させられた結果、マラリアやアメーバ赤痢、飢餓や自然の猛威のせいで消耗し、あるいは自ら死を選んでいった、ということだ。
兵士は大半が戦わずして斃れていたということを改めて知った。こんなバカバカしい話はない。戦争は殺し合うことが忌むべき愚かさの最大の理由だと思っていたが、その愚かさにも到達していないとは。
正月に会った旧友がいみじくも「戦争も結局組織論や人の問題」と云っていたのを、あまり深く考えずに聞いていたが、まさしく彼の云うとおりであったのだと思った。