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紙の本
井上ひさしが笑いにこだわったわけ
2010/08/04 10:46
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ろこのすけ - この投稿者のレビュー一覧を見る
井上ひさしの自伝的要素の濃い作品である。
つまり井上が一家離散し、仙台にあるカトリック系養護施設に入れられた少年時代の体験にもとづいて描かれた作品である。
井上ひさしというと読者を笑わせることに腐心した戯作者という印象があるが、この作品ではそんな片鱗はない。しかし、読み終わってしばらくすると、井上ひさしがなぜ笑いにこだわったか、その根底にあるものの要素をこの作品に見つけたような気がする。
養護施設での体験。特に孤児になってしまった子どもにとって「家族」への憧れと希求というものの切実さがどんなものかしみじみとした「痛さ」となって読者を刺した。
話がずれるかもしれないが、昔、母と映画に行こうとなって、さてどんなものを見るかとなったとき、母は悲劇だけは絶対に見たくないといった。思いっきり夢のあるものや、笑うものが良いといった。悲しみや苦しみを知っているものにこそ、「笑い」は必要不可欠なものなのだ。
井上ひさしは身をもってそれを知っていた戯作者であり、小説家であったとこの作品を読んで思った。
紙の本
井上ひさし全著作レヴュー 8
2010/08/03 15:37
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:稲葉 芳明 - この投稿者のレビュー一覧を見る
『四十一番の少年』『汚点』『あく る朝の蝉』の3編を収録。初出は全て「別冊文藝春秋」(1972年~73年)。
井上ひさしは相当悲惨な状況を題材として描く際、必ずと言っていいほど笑いや救いを「中和剤」として投入し、読者を絶望の深淵に放り出すようなことは普通しない。しかし時折、どこまでも限りなく暗い陰惨な物語を、何らオブラートに包まず直截かつ赤裸々に描くことがある。5歳で父と死別した後母と義父との間に諍いが絶えず、果ては義父が有り金持って遁走したことから生活苦に陥り、カソリック修道会ラ・サール会の孤児院に預けられるに至る――この書に収められた3篇はいずれも、この時期の著者の生活苦を反映した作品である。
重い小説である。戦争の実体験の無い筆者は、戦後日本の余りに貧しく厳しい生活を直視させられたようで、辛く悲しい気分にならざるを得ない。しかし井上氏は、どこかで、どうしてもこの小説を書かなければならなかったのだろう。二度と思い出したくない、辛い嫌な実体験にいつまでも付き纏われないようにするために、その対処療法として、真正面から見据えて作品化することで決着をつけたのだ。いずれも孤児院生活を舞台にしたこの3篇は、戦後日本の原風景をくっきりと映し出す。「現実」には、これに類する悲劇はきっと幾らでもあったのだろう。
何度も読み返したいとは思わないが、井上ひさしの笑いとユーモアの根底に潜む「怨念」の重さと深さを知ることで、井上ひさしという作家の理解は確実に深まる。この「怨念」があるからこそ、井上ひさしの作品は一見笑いに溢れていても、決して上滑りにはならず、「現実」にしっかりと楔が打ち込まれている。それを認識するうえでも、一度は読まねばならぬ作品集である。
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