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おじいさんの思い出 みんなのレビュー
- トルーマン・カポーティ (著), 村上 春樹 (訳), 山本 容子 (銅版画)
- 税込価格:1,602円(14pt)
- 出版社:文芸春秋
- 発売日:1988/03/11
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紙の本
もし小説を書く人が読んでいたら、ぜひお願いします。ぶ厚い畢生の大作でなくていいから、このように美しい断片に充ちた珠玉を書いてください。
2002/05/17 10:35
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投稿者:中村びわ(JPIC読書アドバイザー) - この投稿者のレビュー一覧を見る
小さな子どもというのは、断片的な存在だ。
やることも話すことも、ちぐはぐだったり、流れやまとまりがない。ないというよりは、彼らの奥深いところにそれがあるにせよ、大人の目ではそれを見つけられない。
だから私は最近、フォースターが『インドへの道』で言ったOnly connect…(ただ結び合わせよ)という言葉にとらわれている。それこそが、大人の子どもにしてやれることなのだと。
話はさらに反れて恐縮だが、ついこの間、ある人の少年時代の美しい断片をかいま見る経験をした。
大人も子どもも一緒に遊びに行った帰り、その男性に車で送ってもらった。複雑な路地に囲まれたこのあたりの道をすいすい運転するので感心すると、小さなころからチャリを乗り回していた場所なので、道が頭に入っているのだと言う。
「小学校4年のとき、一所懸命こいでいたら、いつのまにか渋谷に着いてしまってびっくりした。あのことは、忘れられない」。
この辺は、渋谷まで私鉄利用で駅が6つ。その言葉を聞いた瞬間、私の頭のなかに、空に続くスロープを、懸命にチャリをこいでかけ登っていく小さな男の子の像が焼きつくように浮かんだ。
誰のなかにも、このような美しい断片が眠っている。「美しい」というのは無論、私なりのとらえ方で、ある人にとっては瑣末なことであったり目に留める価値のないことであったりするかもしれない。
しかし、私はこのような断片を大事に思い、胸の奥深く沈めているような人に魅力を感じる。カポーティは、それを文章にして表現できる類いまれな作家なのだと思う。
この本は、ロングセラー『あるクリスマス』『クリスマスの思い出』や新刊『誕生日の子どもたち』と同じイノセンス・シリーズという作りの1冊である。
ごく短い物語を、ふんだんな挿画と白地多くゆったりとレイアウトしたした文章で楽しめる。この絵本のような独特な作りにより、短い文章が、乾いたスポンジのようにものすごい多くの水を吸い取るようなものとして感じられることがある。
つまり、長い物語でひたすら筋を追っていくという読書ではなくして、小さな一文一文に込められた、あふれんばかりの作者の思いを感じ取っていくような読書をさせてくれるのだ。
子どもにより豊かな生活をさせ、高等教育を受けさせたいという父親の願いで、ボビーは生まれた土地を離れることになる。雇い人に世話を頼み、祖父母を残して、ボビーと父母は大きな農場での暮らしを始めることになったのだ。
せめて最後の日曜日、ゆっくり祖父母と過ごそうとボビーは考えていたのだが、嵐の接近により、慌ただしい出発を余儀なくされる。これは、その残酷な別れと後日談を書いた短篇である。
「今思うと、僕がそこに行って風が吹いていなかったことなんて一度もなかった」「僕は抱きかえさなかった——そんなこととてもできなかったのだ」「僕はその空白について語るべき一片の言葉も持たなかった」。
私は、小説のなかに、このような断片を見つけ、いつまでも何回でも味わっていたいと願う。
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