紙の本
テーマはめちゃめちゃ重い。
2009/11/14 01:31
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:読み人 - この投稿者のレビュー一覧を見る
週刊文春のミステリランキングが、やや権威化し、少し読者層との認識が乖離していると
いうアンチテーゼから生まれた「このミステリーがすごい!」の、
第一回の海外部門のランキング1位が、何を隠そう、本書「夢果つる街」でした。
第一回からして、殺伐とした極北って感じもしますが、、、。
(ちなみに、国内は船戸与一の「伝説なき地」です。)
カナダ、モントリオールの移民街、ザ・メインが、舞台です。英語圏とフランス語圏の
中間に位置し、まさに"吹き溜まり"といった感のあるスラムです。
表題の通り、ある意味、この街が主人公です。
この街を取り仕切る刑事ラポワント。
彼は、注射の跡から、薬物中毒なのか、売血の跡なのか、見分けるほどの
凄腕刑事です。
そしてこの街でおこった一件の(それこそありふれた)殺人事件をあつかっています。
そして作家についても、、
本書、勿論私が手にした本の版でも第何十刷のベストセラーなんですが、
解説がなぜか二つついていました。
その解説の書き出しが、両方とも、トレヴェニアンは不思議な作家、、、
と書いてあり、一瞬製本ミスかとさえ思いました。
二人がいうのだから間違いありません。
トレヴェニアンは、マジで変わっています。一作づつ作風が殆ど違い捉えどころがありません。
しかし、あえて分けて紹介するなら、本書は、わりと設定ありきで、2004年当りに出た
「ワイオミングの惨劇」に近いかもです。
これも、ウェスタン小説ということで、またもや作風を変えたと評判でしたが、
実は、鉱山だかなんかの近くの肉体労働者町という町がある意味もう一つの主人公の作品でした。
で、実は、ウェスタン小説としても、すかしまくったオフビート作品。
(やっぱりとらえどころがない)
で、読めていないけど、プロット重視の「アイガー・サンクション」系にたいして設定重視系の部類に入るかと思います。
で、すかしまくったオフビートという意味では、
こちらもそうでして、英語圏とフランス語圏の間という設定ですが、
上司の名前なんかみてもそうなのですが、主人公がフランス系であるの対して、
支配者というか、マジョリティはやっぱり英語圏という設定です。
この辺も、文化描写も含めて英語圏の実ミステリを読みなれた私たちには、
少し違和感があり変わっています。
で、本書、ミステリとしてどうかというところですが、
ミステリとしてすごいというより、小説としてすごいといったかんじでしょうか?
ネタバレになってしまうので、書けないのが、辛いところですが、
小説のテーマもミステリの犯人当ても、同じテーマで書かれていまして、
この吹き溜まりの街ザ・メインという犯罪多発地区、
それこそ罪を犯すという意味に対し鈍くなっているような街で
罪を犯すとは、どういうことなのか、をメインテーマに持ってきています。
この辺が、読みどころです。
紙の本
いぶし銀の警察小説
2001/08/28 22:21
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ピエロ - この投稿者のレビュー一覧を見る
この小説の主人公は二人(一人と一つ)いる。
一人はモントリオール市警の刑事ラポワント警部補。50歳代で、妻を若くして亡くしてその後は独身、動脈瘤という爆弾をかかえながらも、相棒のガットマン刑事と捜査に歩く。このガットマンは新人で進歩的な考えを持った若者、ラポワントは何かにつけて反発を覚えるが、一方では自分の年齢を思いため息をつく。このため息がとても印象的で、男の誇り・哀しみ・あきらめがこもっていて読者の胸を打つ。
もう一つの主人公は、ラポワントが担当するモントリオールの一地区「ザ・メイン」。この夢の破れた者たちが集まる吹き溜りの街の様子・自然・暮らす人々を細かなところまで丁寧に描いていて、これまた印象的。
この灰色の街・夢果つる街ザ・メインでおこった殺人事件を、おさえられた筆致で淡々と描いていく、一見地味だがいぶし銀といった感じの警察小説の傑作です。
紙の本
街を知り尽くす警部補の地道な闘い
2000/10/21 06:26
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:格 - この投稿者のレビュー一覧を見る
カナダ、モントリオールのフランス語圏地区と英語圏地区の境目の街。移民達がたくさん住むことによって複数の文化が融合した街、あまりに貧しいため、マフィアさえよりつかず、そのため、小さな犯罪が続発するような街。その街で、本来なら、犯罪の種類によって担当が別れているのだが、この街におきるすべての犯罪を担当するようになった警部補ラポワントが主人公。31年も勤務している。たった1年の結婚生活ののち、妻をなくした。楽しみは、神父や悪友たちとのトランプ。トランプをやりながら、犯罪と罪悪の違いというような論争をする。この物語、淡々と地道な捜査が続いていくのだが、実はこの論争が、重大な伏線となっている。
そんななかでおこる一つの殺人。捜査のために、新人の大卒の警察官が合流する。当然、ラポワントの乱暴な捜査のやりかたに反発するが、しだいしだいにラポワントと気持ちがあっていくようになる。このあたりの描写はうまい。また、同時期に、若い足の悪い売春婦をラポワントは家に連れ帰り、なぜだか、いっしょに暮らすようになる。この話は事件とは無関係なのだが、ラポワントの性格を微妙に描いている。
サスペンスはまったくない。犯人につながる捜査上の発見もほとんど偶然と言っていいものから、繋がっていく。にもかかわらず、後半以降はいっきに読める。人間模様の描写が素晴らしい。
投稿元:
レビューを見る
愛とはなにか。罪とは?罰とは?
現実のどこかにいそうな登場人物たちには共感するところもありつつ、
どこか非現実的な感じもしましたが、細かく現実味の強い文章の描写と
切ない、やるせない内容に、終盤すっかり忘れてしまいました。
推理小説と紹介されてましたが、犯人は…?とか考えずに素直に読むことができました。
投稿元:
レビューを見る
カナダのモントリオールを舞台にした警察小説。
モントリオールを舞台にしてるっていうのがすでにシブイ。フランス移民ではじまった町が、次第にアメリカ人が増え、そしてヒスパニックが増え、ある意味アメリカよりも人種の坩堝になっているのを、パン屋の看板を例にとって語る部分なんか、職人技なのだ。
主人公は、新婚早々に妻をなくし、今心臓病をかかえている初老の刑事。街を守るためには正義だけではだめという信条で動いている。
事件自体は地味に、本当に主人公の性格を反映したかのように進んでいく。
拾った(?)売春婦の少女が花をそえないわけでもないが、やっぱりトレヴェニアンなので絵にかいたようにはならないのであった。
人生の無常を描いてる感じは、ブロックと似てると思うんだが、やっぱりトレヴェニアンのほうが乾燥している気がする。
そのうち未発表作品とかって、でてくるんだろか?
あって欲しいけど、なんか作品読んだ感じじゃ、発表を見送った作品は自分でさっさと処分しまっている人のような印象だな。
投稿元:
レビューを見る
いやー。
この本、1988年の『このミス』海外部門で一位だったんだけど、
ちょーーーーつまんなかったです。
なんで、こんなのが一位だったのかな~???
ストーリーは
吹き溜まりの街、ザ・メイン。いろんな人間たちが破れた夢を抱えて生きている。ラポワント警部補は毎日パトロールを欠かさない。ここは彼の街であり、彼が街の“法律”なのだ。そしてラポワントにも潰えた夢があった…。それは奇妙な死体だった。胸を一突きされて、祈るような格好で路地にうずくまっていた。イタリア系らしい若い男だった。街を知りつくしたラポワントは、難なく最初の手がかりをつかんだ。だがやがて浮かびあがるのはまったく意外な犯人、そしてそこにも街の悲しい過去があるのだった―。
っつうお話なんだけど、
なんかね~、だらだら書かれてて、それが500ページもあってね、読み終わるのに4日もかかってしまったわぁ。最近の私じゃ珍しいペース。
しかも、推理小説と言われるほどハラハラドキドキ感もなかったし、本の大半は主人公がどうやって毎日を過ごしてるかってこと。
カナダの警察って、殺人事件があっても週末はちゃんと休みなんだ~。
のんびりしてるよなぁ。
ああ、なんか時間、損した気分。。。。
投稿元:
レビューを見る
感想はひと言。「渋い」。
カナダのモントリオール、〝ザ・メイン〟と呼ばれる地区がこの小説の舞台である。一匹狼の〝警部補〟ラポワントは、移民や労働者、売春婦や浮浪者がひしめくこの吹きだまりの土地の秩序を、長いあいだ自分なりのやり方で守ってきたいわば〝番人〟のような存在。しかし、この街とそこに生きる人たちを誰よりも理解し愛しているのもまた、ラポワントそのひとなのである。そんな彼のホームタウンで、ある夜ひとりのチンピラが刺殺される……。
そこから話は二転三転……というわけには、ところが、全然いかないのである。事件の捜査に、動きらしきものが見えるのはようやく333頁になってから。全体の4/5は、濁った池の水面をじっと眺めているような案配。最後の1/5でその濁った水面が一気に透き通り、事件の全貌が明らかになるのである。
ただ、これはたぶんミステリではないのだろう。〝ザ・メイン〟という、時代から取り残された人々が身を寄せ合って暮らす時代から取り残された土地の物語だ。そしてその土地も、そう遠くない将来、近代化の波に押し流され消えてゆく運命にある。そしてそこに生きる人たちもまた。老兵しかり、モイシェしかり、心臓に手術不可能な動脈瘤を抱え、もはや警察署の中に味方がひとりもいない古いタイプの警官であるラポワントもまた、しかり。読了後、なんとも苦い後味が残る一冊。
投稿元:
レビューを見る
カナダという国にはどういうわけか良い印象しかありません。
それは何も知らないからなんだけど。
なんとなく寒いけれどクリーンな感じがするんです。
ま、海外はどこも観光だけじゃわからないこと、住んでみないとわからないことがたくさんあるんですけどね。
本書は冬のモントリオールを舞台にしています。
カナダの冬だから暗いのは当然なのですが、移民の吹き溜まりである下町を取り上げているせいか、話全体がどんよりと暗いです。
それが何だか意外でしょうがありませんでした。
主人公のラポワント警部補はうだつの上らない(上げようとしない?)頑固者の中年警部補。
愛妻を早くに亡くし、何もないアパートでやもめ暮らしをしています。
だけど本当は優しいいい人なんですね~。
ま、ハードボイルドにはありがちですが。
身元不明の死体を調査するためにこの街の住人たちと接していくわけなのですが、相手は売春婦、浮浪者、与太者と社会の底辺にて蠢いている人々ばかり。
その描写が素晴らしく、思わず熱中して読んでしまいます。
哀しい現実、それでも生きていかなきゃいけない人々。
最後にはなんだかやり切れない気持ちになります。
じんわりと事件を解決していくわけですが、読み応え十分!
実はトレヴェニアン作品は2作目。
本当は「シブミ」を読みたいのですが、なんせ順番に読んでいかないと気がすまない性分。
これが災いして初期の古い作品ばかり読むはめになる私。
でも、本書は読んでよかった!と思っています。
投稿元:
レビューを見る
邦題がいただけない気がするなあ。
ザ、メインでいいじゃないの。
この街がまさしくメインの物語だもの。
メインで這いずり回る人々が、悲しくも、穢れている。
別にたいしたストーリーじゃないし、事件も犯人も意外性はなく、メインにふさわしいだけ。
まあ、ラポラントは、魅力的だな。
この重く、苦しいカナダの汚れた街の空気を味わう作品だね。
投稿元:
レビューを見る
くたびれ廃れた街。ザメイン。
暗い過去と持病を抱えた警部補ラポワントは、今日も希望のないこの地域をパトロールする。
殺人事件が軸であることは間違いない。ただ、本作の魅力はこの街自体。腐りきった土地。売春婦。浮浪者。麻薬。堕ちゆく人々。未来はない。
ラポワントの信条はどこまで貫けるのか。行く末を見守る読者。
罪とはなにか?罰とはなにか?
街の行く末に哀しみが押し寄せる。人生の節目節目に読みたい傑作。
投稿元:
レビューを見る
このミス海外編1988年版1位。フロストシリーズみたいな壮年の刑事が主役の警察小説。事件自体は単純だし謎解きを楽しむのじゃなくリアルな人間模様やもの寂しい雰囲気に浸る感じ。文学っぽい。後半は雰囲気を楽しむこつが分かって面白いのですが、進まないです。大型連休があって本読む時間がなかったってのもあるのだけど2週間以上かかった。翻訳の問題なのかもしれないけど文章がすんなり頭に入ってこなくって、すぐ関係ないこと考えたりしてまう。惜しい。
投稿元:
レビューを見る
売春宿やダンスバーなどモントリオールの吹き溜まりの町ザ・メイン。
ここで起きた殺人事件をラポワント警部補は彼なりに、この町のルールなりに解決して行く。
罪悪とは?犯罪とは?と考えてしまう。
頭の中ではレオンのジャン・レノやブルース・ウィリスをラポワントの重ねてしまった。
投稿元:
レビューを見る
最初の1ページを読んだ時からこの作品は傑作だなと感じた。それも生涯忘れ得ぬほどの…。
前回読んだ『バスク、真夏の死』とは比べ物にならない読み易さと簡潔かつ的確な訳。外国の小説でこれほど町のイメージがたやすく浮かんだのは、本書が初めてではなかろうか?
それは著者が街の住人を誰一人として疎かにせず、見事に活写したため。行間から息吹が、匂いが立ち上ってくるが故に、それぞれが皆、確かに生きていた。
稀に見る傑作だ。
投稿元:
レビューを見る
モントリオールのスラム街、様々な人種の吹き溜り、ザ・メインの治安を一手に引き受ける初老の刑事と刑事に清廉さを求める理想主義な大卒新人警官が主人公。ミステリー性は低いが、掃溜めの様な人々の喘ぐような生活描写がとても哀しい。未来を見る事の出来ない邦題が物語っている。