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小泉八雲作品集 3 物語の文学 みんなのレビュー

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紙の本

小泉八雲の素晴らしい小説に似合った布クロスの表紙の本

2010/09/07 12:50

1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:本を読むひと - この投稿者のレビュー一覧を見る

 先だって古本屋において驚くほど安価で購った本書は、ひもとくたびに喜びにひたれる。収録された短篇を読みつぎながら、怪談ではない小泉八雲の古き日本についての小説に感嘆しっぱなしになった。作品は、たとえば「赤い婚礼」であり、「君子」であり、「ある女の日記」である。
 何が素晴らしいのだろうか。「赤い婚礼」では、亡き母親が士族出身だった農家の娘およしが、好きな一つ年下の少年がいるというのに、それほど冷酷なわけではないが計算高い継母によって、見も知らぬ男の後妻にされることになる。《先ずおよしは死人のように真青になった。しかし次の瞬間には、ぽーっと赤らんだ顔に微笑みを浮かべ、ていねいに頭を下げた。》
 結局、彼女は恋人とともに走る列車の前に身を投げるのだが、私が感心したのは、小泉八雲の冷ややかではない客観的な〈日本的なもの〉への視線である。本書収録の「ある女の日記」を読めば分かるように、小泉八雲はことさら士族的なものを称揚しようとはしていない。まして女性を主人公に描くことの多さが証明するのは、サムライ的なものへの微妙な批判意識かもしれない。
 「君子」では、やはり士族の家らしいが、貧しさから母や妹のために芸者になった君子は、彼女のために死のうとしたことから結ばれるかに見えた裕福な家の息子との絵に描いたような幸福をなげうつ。《私はあなた様の迷い、あなた様の夢まぼろし、あなた様の生涯を一瞬よぎった影でございました》といった言葉のまじった手紙を残して彼女は消える。見事な結末はあえて記さないことにしよう。
 一方、「ある女の日記」はもっとリアルに市井の平凡な女性の結婚や出産を描き、この国のある時代を行間に浮かび上がらせるのに間然する所がない。ここには、「赤い婚礼」や「君子」にはあったロマン的な視線はない。見合いからほとんどすぐに結婚が決まり、生まれてくる子どもは次々に早世する。
 だがあることから手にした名もなきひとの日記を読み(フィクションだとは思えない)、英語に移し変えた作者は最後に次のような言葉でしめくくる。
 《おなじ貧しい階級の女性で、自分個人の喜びや苦しみを、これほど巧まず哀切な記録に表現できる者は、おそらく日本にも多くはあるまい。しかしこの婦人同様に、生きることを努めと思う考えかた、この婦人に劣らず無私の愛をいだける能力を――何の疑いもさしはさまずに遥か大昔から信じつづけ――受け継いできたこういう女性たちは、何百万人といる。》
 やはりリアルなままでいることができないのが小泉八雲なのだろう。そしてそこに彼の著作が今に至るまで日本人に読み継がれている理由があるのかもしれない。

 ところで本書は箱入りで、表紙は布クロス(布張り)である。今ではこうした表紙は少なくなっているが、本を手にし、読むときの手触り感は言葉にしがたいものがある。
 現在では多くの図書館の本は、こうした布クロスの表紙の本であろうと保護のためのビニールシートを貼りつけてしまうので、手触り感はまったく失われる。布クロスの表紙の素晴らしさを自分のものにしえるのは、そうした本を購入し、所持し、読むものにかぎられるのだ。
 探してみると私の蔵書にも、布クロスの本が他にもあった。それらの本は表紙が布クロスだから購入したということはないはずだが、手にしたときの愛着感はどれもこれもいい。ドストエフスキー全集、カフカ全集、ミシェル・フーコー『言葉と物』、萩原延壽『遠い崖/アーネスト・サトウ日記抄』、吉本隆明『詩的乾坤』、江藤淳『成熟と喪失』などである。ちゃんと確認したわけではないが他にも思わぬ布クロス表紙の本があるだろう。

 さて本書の解説ページには、通常はあるはずの各短編についてのデータや訳者による補助的説明が載っていない(原題と訳者名のみ記載、そのほか訳者の一人による、ある短編に焦点をあわせた長めの評論、小泉八雲小伝、年表はある)。これは不親切な措置だと思ったが、解説をしばしば先に読んでしまう私のような読者に対しては悪くなかった。おかげで私は、有名な「耳なし芳一」をはじめとした『怪談』収録の諸短編とともに、上記の素晴らしい明治期の日本を描いた小説を一切の予備知識なしに読むという幸運にめぐまれた。



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