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19世紀ロシアの作家・ジャーナリスト、
ニコライ・レスコフの中短編小説集。
リズム感のいい神西節が冴える素晴らしい翻訳。
旧字だが全然読みにくくない。
手に取ったきっかけは岩波書店『図書』2020~2021年の
亀山郁夫の連載「新・ドストエフスキーとの旅」第9回
〈去勢派とバフチン――2018年8月、オリョール〉で
「ムツェンスク郡のマクベス夫人」に言及されていたこと。
訳者があとがきに記したとおり、
幻想的な趣きもありつつ、現実から遊離していない物語群。
■ムツェンスク郡のマクベス夫人
(Ledi Makbet Mcenskovo uezda,1866)
若くコケティッシュなカテリーナ・リヴォーヴナは、
ずっと年上の商人イズマイロフに嫁いだ。
舅や使用人らと共に淡々と暮らしていた間は平和だったが、
番頭衆の一人で格別の色男、プレイボーイと評判の
セルゲイと不倫関係になって以来、
長年胸の奥で眠っていた悪心(あくしん)が
目覚めたかのように大胆不敵になり
――というノワール小説。
上記「新・ドストエフスキーとの旅」によれば、
初出はドストエフスキーが主宰していた
雑誌『エボーハ』1865年1月号で、
ドストエフスキーに高く評価されていた由。
■真珠の首飾り~クリスマスの物語
(Zhemchuzhnoe ozherelje,1886)
結婚して幸せになりたい!
いい人を紹介してくれ!!――と弟に縋られた既婚の兄。
弟はあるお嬢さんと意気投合したものの、
彼女の父親が問題で……。
■かもじの美術家~墓の上の物語
(Tupejnyj hudozhnik)
タイトルの「かもじ」は髢で、今で言うエクステの意。
舞台役者のヘアメイクを手掛けたアーティストについて語る、
美しい老乳母。
彼女は元女優で、
伯爵に強引に妾にされそうになったところを、
意中の人であるヘアメイク担当の男性に助けられ、
駆け落ちしたという。
彼女の髪をセットしながら
「心配するな、連れ出してやるぞ」と耳打ちする
〈かもじの美術家〉! 痺れる!!