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紙の本

寓話的物語の魅力に満ちた近年(読んだなかで)希に見る傑作

2004/06/20 19:40

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投稿者:king - この投稿者のレビュー一覧を見る

「まっぷたつの子爵」「木のぼり男爵」から続くカルヴィーノの寓話的歴史小説三部作「われわれの祖先」の掉尾を飾る長篇小説。「まっぷたつの子爵」ではひとりの子爵が善と悪とに分かたれ展開されるメルヘンチックな雰囲気で童話のような体裁なのだが一筋縄ではいかない深みを持っていたし、「木のぼり男爵」では子供じみた意地が元で樹上生活をはじめ、ついには死ぬまで地面に降りずに生涯を送った奇想天外な物語だった。

「この物語が繰り広げられておりまする時代には、世界の事物のありようは、いまだ混乱しておりました。名前や、観念や、形や、制度の中には、実在するなにものとも照応しないものも珍しくはございませなんだし、また一方、世界には、名前もなければ、他のものとの区別もない事物や、能力や、人間が満ちあふれておりました」

そんな時代を舞台に、「不在の騎士」では、純白の鎧甲冑に身を包んだ「いない」騎士アジルルフォがまず登場する。完璧な武芸と厳格な精神を持ち合わせた無類の騎士、だが鎧のなかはただの空洞。名前と肩書きのみを持つ、「不在」の騎士なのである。
そして、騎士が仕えるシャルル・マーニュ皇帝の進軍の途中、一団は不思議な男に出くわす。あひるの群れについて歩き、皇帝の言葉にも応えることなくただあひるの鳴き真似のような声を立てている男で、村のものに名を聞くと、グルドゥルーという名を知るが、他の村ではまったく違う名前で呼ばれていることも知る。男は、あひるを見れば自分をあひるだと思い、蛙を見れば自分を蛙だと思いこむ妙な男で、村が違うどころか季節が変わっても名前が変わり、自分の名前を呼ばれても自分のこととは思わない。つまり、身体を持つが意識や自己が不在の男なのである。
グルドゥルーは皇帝の気まぐれによりアジルルフォの楯持ちに命じられる。

この、ドン・キホーテとサンチョ・パンサを思わせる二人の対比は、「自己」をひとつの軸としている。
そしてもうひとりの主な登場人物であるランバルドは、まだ自己を形づくることが出来ていない青年である。
父の復讐を何とか果たし、大きな目的を失ってしまった彼は、憧れの騎士アジルルフォを心の頼りとして付き従う。そんななか、彼が恋した女騎士ブラダマンテはアジルルフォに心奪われていると知るのである。

「このようにいつも若者は彼女の方へ駆け寄っていきます。でも、彼を衝き動かしているのは、はたして彼女への愛なのでしょうか、それとも、なによりもおのれへの愛なのではないでしょうか、その女のみが彼に与えうる、おのれが存在しているという確信を求めてのことではないでしょうか?」

筋はこれ以上説明しない。物語の魅力に満ちた本書を読む興を削ぐことは避けたい。

身体が不在の騎士と自己の不在な男という魅力的な設定はもとより、未熟な青年の恋愛を描きながら、アジルルフォの起こす冒険の痛快さ、面白さを失わず、現代文学的なメタフィクショナルな語り=騙りの問題をも鮮やかに物語に溶かし込んだこの小説はまさに傑作だ。

特に最終章からラストへと至る文章は感動的なまでに素晴らしい。物語が次第に収斂していき、小説の謎がぴたりと平仄をあわせ、走りだした情念が未来という未だ来たらぬ消失点を目指して駆け抜けるのである。広角と抽象的なので、全文引用したい誘惑に駆られるが、是非自力でたどり着いて読んでもらいたい文章だ。

「まっぷたつの子爵」や「木のぼり男爵」にくらべ流通していないのか、あまり店頭で見かけない作品だが、三部作の中では一番好きな作品である。
「むずかしい愛」のような日常を切り出した短篇も素晴らしかったが、このような物語の魅力を湛えた作品もまた素晴らしい。と思えば「見えない都市」や「レ・コスミコミケ」のような実験的、SF的作品もあって、まさに「文学の魔術師」なる呼び名にふさわしい多彩な魅力を放つ作家である。

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