紙の本
青春文学ベスト10があったら必ず入れたい一作
2002/05/09 01:09
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投稿者:カレン - この投稿者のレビュー一覧を見る
島田雅彦の少年時代のエピソードを読んだことがある人なら誰でも、亜久間一人との共通点をいくらでもあげることができるだろう。
思春期の妄想の数々を、こうして傑作青春パロディ小説にできるところがさすが。
露悪的、自意識過剰のクラウン亜久間一人。
少年期は誰でも多かれ少なかれ「自分は特別」と思っているものだ。
彼の場合幸か不幸か、その特別な名前という裏づけを与えられてしまったものだから、もうどうにも止まらない。
「中学では何か一つのことに打ち込みなさい」という父の言葉をうけて、何か一つのことに熱中するやつを茶化すことに熱中した、という亜久間一人は、高校を中退してから自分のおっかけちづるを恋人にする。
このふたりのむずむずする会話が、この時代の気恥ずかしさをよく表している。
「僕は君に感謝している。こんな発狂寸前の男によくもまあ付き合ってくれてるなあと感心している」
「わたしは発狂にあこがれてるの。でも、もう発狂してるかもね」
ほら、恥ずかしいでしょ。
もちろんこれも島田雅彦の狙いどおりなのだ。
青春文学ベスト10があったら必ず入れたい一作。
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元気が出ます。
人生を悲嘆するわけでもなく、夢に向かって爆走するわけでもなく、ただ自分自身を茶化すことに全てを傾ける主人公。
読んでいると観客の視点から自分を眺められるようになるので、悩んでいるときに読むと元気になります。
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徹底的に自分を演出する主人公に共感を抱いたと思えば、そんなものをかるくぴょんと飛び越えてしまってどこに収束するか分からないので面白い。考え方がすごい。
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面白い!
島田雅彦をトパーズの映画で見たのが初めてですが作家だとは知りませんでした。
1986年に書かれた小説ですが、私が思春期にこの本を読んだら人格形成になんらかの影響が出たかもしれない。
比喩が面白いし妙チクリんな四字熟語も笑える。
主人公のカズヒトのように誰しもアクマヒトリを飼っているんでしょうなぁ。
これからドンドンハマりそう、島田雅彦、最高。
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アイデンティティの確立。どんな集団にも中心になり王子様、お姫様になれる人間がいる。また、生まれながらに不具者であるとか、不器用な乱暴者であるとか貧乏人であるとかいった「才能」によって周りから特筆される人間もいる。この小説の主人公は、そういった自分の存在意義を担保してくれるような社会的地位はなにも持っていなかった。現代人も自らの存在意義を問うとき、自分の社会における無用さ、無用であることを受け入れられず狡猾に生きている自分に対する嫌悪感を、感じることがある。自分は代替可能な模造された存在でしかないという事実が脳裏にちらつくと何もできなくなる場合もある。亜久間一人の場合は模造人間である限り、何者にでもなれるのだということに突破口を見出した。僕は同じようにコピー人間になりながらも、コピーにしかなりようがないとしても、コピーを混ぜ合わせること、矛盾させることで、スズメの涙ほどでも自分のオリジナリティを見出したいを感じた。
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最初に読んだとき主人公が生意気に思えた。2度目で共感できることがわかった。3度目に読んだときには尊敬するようになっていた。
そして今はこの話の主人公のように生きて意向と思っている。
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よくわからなかったよ。
きっと自己表現やら自己効力感と他者とのかかわりあい、
みたいなのがテーマなんですよね??
そこまで性欲にこだわった理由がよくわからないー。
きっと主人公は想像力が豊かで私がついていけないだけかも。
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変態なみなさま、これを読まずにいられるか!
「別れたいのなら、別れてやるぜ。その代わり、ベッドの上にうんこをしてからだ」
という台詞、とその直後の「気狂いめ」のくだりがとてもわたしの心がときめかせた。
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最初から最後まで、まじで面白い。無限カノン三部作は、やっぱり三島由紀夫を意識して書かれたものだったんだなあって、これを読むとひしひし感じる。『彼岸先生』、『きみが壊れてしまう前に』、そして、この『僕は模造人間』が今のところの私の島田雅彦体験トップ3ですね。
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《人生は選択の連続だ》
というけれども、まさにその通りな主人公でした。
下品と言えば下品道まっしぐらで、どこか愛嬌があると言えば愛嬌もあるような気もしないでもないこの物語の主人公、亜久間一人。
僕や私という存在のなかに住んでいる模造人間とは、僕や私のなかに住まう幻であり、他人のなかに住まう幻でもあるので、自分は模造人間なのだと言い切る。そしてそれは他人や僕や私のなかに住まう模造人間が表に出、自分を導くような言い方で括られ、終わってしまう。
人生は選択の連続だ。
…確かにこの通りだが、もしかするとそれは誰かが決めた選択なのかも知れない。
(2009.08.09)
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読んだのは、もう20年近く前。
学生時代にある会社の就職面接で、好きな本を語って下さいと。熱く語ってみたら、次の面接に進めたことを思い出しました。
嫌いな業界を見に行っただけなので、次は行かなかったけど、度量のある会社だな。
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結局のところ自分は誰かしらの模造をしながら生きている、このことを肯定してしまえる主人公の強さ。なんとなく畏れ多いような雰囲気がある…
短編だし、一日で一気に読み終えた面白い作品。友達に貸したら学校休んで読み耽ったそうな。
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ぶっ飛んだ変態的な世界に飛ばしてくれます。
作者の島田雅彦氏ご本人が、「この小説は大好きという人は真性の変態」と仰っていたらしい。確かに。
もしも好きな男性にこの小説を薦められたら少し戸惑うかもしれない(笑)
今っぽい言葉に簡単に言ってしまえば、この小説の主人公・アクマカズヒトは“中二病”なのだけど、実際にアクマくんの青春期を描いている小説なので、その言い方は正しくないのかも。
だって実際中二だから、という意味で。
これがもっと大人…たとえば30歳近い人が主人公だったら、とんだ“中二病”の小説です。
言い方はおかしいけれど、芸術的な“中二病”。
これは読んでみなければわからない本だなぁ。。
最初は重たい話なのかと思ってたけれど、実際は不思議な軽さがあって、全体的にバカにした感覚が漂っていて。
そんなアクマくんの奮闘は読んでみなければわからない。
誰にでも自我の目覚めとか性の目覚めの経験があるからこそ、ある程度大人になってからこのアクマくんを見ると、「うわ~…」と思うのだろう。彼ほど変質的ではないにしろ、青春時代に彼と似たようなことを思った記憶がある人も結構居るんじゃないかと思う。
“未完成な模造品”
“誰もが誰かを演じている”
うーん。。。
その可能性を0%と言い切るのは無理だ。
話中の端々に三島由紀夫が登場するのは、島田氏が敬愛しているためなのか?
(恐らく国粋主義が行き過ぎる前の三島に)
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昔いた所は真暗闇で何も見えなかったが、音はよく聞こえた。僕は、塩辛いが、だしのよく効いたスープにつかって、様々な音を聞いた。いつも聞こえていたのは太鼓の音と川のせせらぎだった。それはとても規則的でなぜか聞いているだけで眠くなった。だが、規則が乱れることもあった。時折、それらの音はピッチかわ上がったり、強くなったりして、僕を驚かした。そんな時、僕は根拠のない不安におののいたり、歓喜に身を震わせたり、また、思わず、柔らかい壁を足で蹴ることもあった。音はこのほかにもいろいろあった。男と女の会話や子供の甲高い声、たくわんを噛むような音、おかしな音楽も聞こえた。全て、柔らかい壁ごしに僕の体に伝わるのだった。何しろ、暗黒の世界である。聞こえてくる音はただ耳と身体をマッサージするものに過ぎなかった。川のせせらぎとか子供の甲高い声は後年光の世界で聞いて、ああそういえばあの暗黒の世界でも似たような音を聞いたなと憶い出したということなのだ。
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これを読んで僕は島田雅彦のすばらしさを知った。以前に何冊か島田氏の小説を読んでいたのだが、それほど心に来なかった。しかし、この「僕は模造人間」では、もう、心打った。描写がよく、ポストモダンチックである意味では村上春樹に似ているなあと思った。音楽的で、色彩豊かな、一人称視点。――模造人間を通して語られ、象徴される、自立と心の葛藤。若者の悩み、そういったものが作品から漏れ出していて、おもしろいとおもった。これからも島田氏の小説を読もうと心に誓ったのであった。