紙の本
海狼伝/日本海洋冒険小説の傑作
2005/10/18 14:23
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:tujigiri - この投稿者のレビュー一覧を見る
海賊、と聞いて「宝島」を思い浮かべる方。
正解です。
ピーターパンのフック船長を想像した方。
あなたも正解です。
キャプテン・ドレイクらの私掠船乗りを思い起こした方。
もちろん正解です。
黒ひげ危機一髪を思い浮かべた方。
……まあ、正解です。
一般的に海賊のイメージといえば帆船に乗り込んで略奪を働くムサい野郎どもなのですが、どっこい、なにも白い人種の専売特許じゃあござんせん。
最近もニュースになったように、マラッカ海峡ではいまも海賊が出没し第三国を介した大規模な収奪とロンダリングが行われていますし、遠くは明国の海岸線を荒らしまわった倭寇もいました。
この倭寇、学術的には前期倭寇と後期倭寇に分類されていて、前期は九州は松浦を根城とした松浦(まつら)党や対馬の海民などが主導的立場を占めていましたが、後期のそれは少数の日本人を帯同したものの実体は食い詰めた明の貧民が徒党を組み、倭寇を名乗って略奪行為に明け暮れた集団とされています。
当時の東シナ海はいまのように国境や領海で厳粛に分かたれておらず、人間の移動や密貿易の盛んな実に流動的なエリアでした。
この海域には周辺国の司直の手もおよばず、日支朝入り乱れてのさながら文化・民族コンプレックスの様相を呈していたわけです。
たとえば国姓爺の称号でおなじみの鄭成功は片親が日本人で平戸の生まれですし、代々五島列島に根拠地をかまえた明国人和名をもたくさんいました。
このように日本の海賊が活動する一方の舞台が外海の東シナ海であったのに対し、内陸に矛先を転じてみれば日本の海運のメインロードたる瀬戸内海があります。ここにバン居して交易を牛耳った存在として、能島・来島・因島の3島にわかれて磐石の態勢を築いた村上水軍が挙げられます。
瀬戸内海といえば日本海賊の始祖・藤原純友が有名ですが、織豊時代とほぼときを同じくして活躍した村上水軍棟梁・村上武吉も日本海賊史上なかなかの大物で、のちに信長の意を受けて開発された鉄被の大安宅船を率いた九鬼水軍によって壊滅的ダメージをこうむるのですが、その信長をして惨敗を喫しめた第一次石山本願寺攻めにおける海上封鎖破りを指揮して、めざましい活躍をみせたりしています。
この村上武吉の確立した帆別銭というやり方がふるっていて、彼らは堺などの港町に出張所のようなものを設けて瀬戸内海を渡る全船舶にあらかじめ高い警護料を課し、目印の旗を掲げて航行させます。何千ともいわれる島嶼が存在する地理的要因のせいで水路を限定された瀬戸内海にあって、彼ら村上水軍ほど水運に熟知した者はおらず、もし貿易船が帆別銭をきらって監視の網の目をかいくぐらんとすればたちまち発見・襲撃され、荷のすべてや船そのものを失うことになるのです。
また物量、戦術ともに村上水軍に立ち向かえる水上勢力は皆無であり、つまり瀬戸内海は陸のルールとはまったく別の支配が及んでいた海の王国だったわけです。
どうです?
わくわくしてきませんか?
本書は日本海賊の跋扈した外海・内海を主人公の流浪という形でリンクさせ、贅沢にも彼を両エリアで活躍させます。なんたる大立ち回り!
片や対馬に根城をかまえる朝鮮帰りの老海賊、片や村上水軍の客将と、主人公は自らの謎めいた血筋にときに翻弄され、ときに救われながら両勢力下を渡り歩き、織田〜豊臣〜徳川政権の統治によって海の支配権が急速に無効化されていく激動の時代を駆け抜けていきます。当時の海賊たちがそうであったように彼の目線は陸の動向に固定されておらず、はるか波浪の彼方に夢を結びます。
「へえ、日本にもそんな大規模な海賊がいたのか」、と思った方は是非この本を読んでみてください。
歴史の先入観を変えられるかもしれませんよ。
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直木賞受賞作。
村上水軍に捕らえられそこで成長し、頭角を表す
冒険小説。続きに『海王伝』があるが
僕はおなかいっぱいになった。
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対馬で育った少年が史上名高い村上水軍の海賊集団に参加、"海のウルフ"に成長していく青春を描く。海洋冒険時代小説の最高傑作
2008.9.15 読了!
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2009年5月
井上文庫5冊目
今まで読んだことないタイプだったかも
かなり面白い。
歴史ものでもあるし。海賊出てくるし・・・
ラストがあっけないような気もするけど
面白い
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全1巻。
船乗りの話。
この人の時代物はサムライの海以来。
忘れてるけど。
普通の青年が成長してく。
実はすごい的な。
今で言う中二病的な?
この人はこういう主人公上手い。
好き。
信長とかがチラっと出てくるけど、
基本関係ない。
村上海賊とかあそこらへんが舞台。
ワクワクする。
1巻完結だけどシリーズとして続編へ。
ワクワクする。
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海に関する冒険小説が読みたいと漁っていた時期に購入。好きな歴史・時代小説のジャンルということも購入を後押しした。
新しい視点から歴史が見られるという点ではよかったが、内容は単調であった。人間描写などの文章力が司馬遼太郎などの作家に比べると落ちるのかもしれない。
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出版社/著者からの内容紹介
対馬で育った少年が史上名高い村上水軍の海賊集団に参加、"海のウルフ"に成長していく青春を描く。海洋冒険時代小説の最高傑作
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海の男描いた珍しい小説。村上水軍の当時の様が丁寧に描かれており大変面白い。信長とニアミスするところもあり。しかし小説家というのはすごい職業であることをつくずく感じる。文献をひもときながら物語を紡いでいく。地道な作業の繰り返しなのだろう。描写は船作りも含めてものすごい参考になるが最後のシーンは勿体無い感じがする。続編ありきの結びもありなのだろうか。海王伝も引き続き読もう!
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日本の水軍(海賊)という題材にまず目新しさあり。登場人物のキャラ立ちもまずまずで、読みごたえあり。ただ続編ありきの「第1部」って感じ。
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海狼伝 (文春文庫)
第97回直木賞 主人公:笛太郎の対馬・瀬戸内海を舞台とした海洋小説。その当時の海賊衆の生き様や陸にいる武将達(織田・毛利・石山本願寺など)との接触についても描かれてあり角度の違った見方ができて面白かった
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とにかく面白い。日本の歴史小説でいて海洋小説というのは珍しい。
時代は織田信長の戦国時代。瀬戸内の村上海賊を中心に、その頃の海賊達の様子が良くわかる。朝鮮や対馬の歴史の背景も興味深く、電車から降りても区切りの良いとこまでホームで読んでしまった。第79回直木賞受賞作品。
最近は息子の白石一文の小説は良く読むけど、父親の方はこれが初めてだけど、才能ある親子です。
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97回 1987年(S62)上直木賞受賞作。戦国時代の玄界灘、瀬戸内海を暴れまわる海賊の話。主人公と相棒、敵、ヒロインたち、それぞれが背負った過去があって出会い、惹かれあい、戦う。おもしろい。おすすめ。受賞から十年後に『ONE PIECE』の連載が始まっている。尾田栄一郎さんもこの小説を読んだにちがいない。
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白石一郎という人は、海洋小説か十時半睡かどちらかだと個人的に思っているのですが、この作品は前者。
ひとりの男の海をめぐる冒険小説にして最高傑作。
青春とはこういうものだということを実に瑞々しく描いている。
青春と呼べるかどうかわかりませんが、そういう時期に読めたのはとても運が良かったと思っています。
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「村上海賊の娘」の流れ。時代設定もほぼ同じ頃、石山本願寺と信長との海戦も出てくるがこのお話は対馬から始まる。 もちろん瀬戸内も村上海賊衆も重要な役どころで出てきます。こちらのほうが少々スケールが大きいかな、でもエンターテイメントとしての面白さ、映像的な描写の面白さは「村上海賊」に軍配が上がるような気がします。
続編の「海王伝」も読みます。
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読んでいる最中から、既読感がずーっとあった。
織田信長の時代の海賊の話。村上海賊の娘と同世代の話であり、村上武吉やその他の登場人物、エピソードもかぶる部分がある。対馬で育った男が海賊になり自分の船を持つまでの話。
笛太郎は母のつてで対馬に現れた宣略将軍の船に乗ることになった。村上海賊との戦いで海に投げ出された所を敵将(小金吾)に助けられ、その配下となり船頭となった。いろいろあって、宣略将軍の船と再度戦い、これに勝つが、その戦いの中で
小金吾は死んでしまう。その跡をついで、船大将となる所まで。
続編として海王伝があるらしいのでこちらも読んでみよう。