紙の本
さすがに、「子を貸し屋」を書いた人
2020/10/25 21:57
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投稿者:ふみちゃん - この投稿者のレビュー一覧を見る
質草になっている着物を虫干しする男を描いた「蔵の中」、自分の子供を商売女に貸し出す商売をする男を描いた「子を貸し屋」と奇妙な小説、2編を残している作者の作品をまた読みたいと思って読み始めたのが、この本だった。この主人公は芸者をしていた女を妻にしたのだが、その女が極度のヒステリーを起こす人で、主人公は手を焼いてしまっている。同居している母親も同様だ。うまいこと丸め込んで女を芸者に復帰させて、何とかこの女とは手を切れそうだというあらすじなのだが、「蔵の中」「子を貸し屋」同様に、主人公はどうしようもない優柔不断の男で、まったく好感がもてない、だからこの小説はおもしろい
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『苦の世界』という題名からとっさに想像されがちなイメージと相違して、確かにヒステリーの妻やら金銭苦やら世渡り上手の友人やら困難は矢継ぎ早にやってくるのだけど、終りなくだらだら続く日々の中にもどこか悲喜劇じみたものがあり、悲壮感をさほど感じさせない物語で、読後には寧ろ生きるって憎みきれないもんなんじゃないのとさえ感じさせられたのだけど。
ただしそれは余裕のある時だけで、実際渦中に置かれてみれば、そんなわけないな、端からみてりゃそうだってだけで、重苦しさを与えないよう努めているだけなのだろうな、と思う。そんな薄い感想しかとりあえずは出ないけど、古い作家なのに宇野浩二はしゃきっとしていない(良い意味で)文体もとても魅力的で、現代になっても面白く読めるのではないかと思う。
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ダメ人間たちがくりなす悲しくもおかしい日常。リアルで考えてみたら悲惨な話なのに、それをやんわりとした文章で綴ることで、単なる私小説に終わらせない宇野浩二ってすごい。
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女の人が抱えた社会的な
あるいは生理的な理不尽に対する被害者意識の爆発
それをヒステリーと定義する人もあった
爆発してあふれ出るネガティブな感情の奔流には
秩序がない
秩序とは自律する構造である
世界の混沌をそういった形式に落とし込むのは
歴史家の仕事であり
物語作家の仕事なんだ
女のヒステリーに悩まされた人が面白おかしくそれを書くことは
理性によって彼女の心に平穏を取り戻そうとする男の
ひとつの祈りにほかならぬ
マジなんだ
だけど物語る行為にはいつだってうたがいの目がついてまわる
それゆえに嘘つきは
寂しい人とかせっぱつまった人ばかり狙うわけだが
それを思えば小説というのはじつにこう
罪のないものですな
信じるにせよ、信じないにせよ
こんなものを書いて商売にするアホな人も世の中にはいるんですよと
笑っていれば、読者にはそれですむ話なんだから
とはいえ、このヒステリー女は自殺したらしいんだけどね…
「苦の世界 その一」が発表された直後ぐらいに
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[関連リンク]
Twitter / ネジ子: 宇野浩二の「苦の世界」を読んでいるけどおもしろすぎる……: http://twitter.com/nejiko/statuses/19646618301
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金もなく、あてもなく、そういう時こそむしろ妙にぐうたらと過ごしてしまうし、なぜか妙に焦らないし、なぜか妙にヘラヘラしてしまうし、なぜか妙に危機感が湧かない。つまり何か/どこかを志向するのではなくただ行き当たりばったり、無為に彷徨っている(彷徨わざるを得ない状況によって)ことが、俯瞰して見た人生における矢印を消失させ、ただ生きているという素朴な存在になっている。というようなことを思った。縄文時代ならいざしらず、文明の整備された世界において貧乏でおると、とにかくめちゃくちゃ時間が有り余るのであり、贅沢な時間の使い方(昼まで寝る 昼から散歩する 暗くなるまで昼寝する 夜更けまで呑む)をすることができる。贅沢といま書いたが、貧乏なのに?はたして贅沢とは何か?苦の世界と言いながら、なんだか彼らは楽しそうだ。楽しそうと思わされつつ私はこうなりたいわけではないが。こうなりたいわけではないと思わされるということは、じゃあやっぱり「苦の世界」なのか。