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紙の本
現代の神経のイメージを確立したスペイン人研究者の生涯は波乱万丈。
2012/02/26 09:18
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:銀の皿 - この投稿者のレビュー一覧を見る
サンチャゴ・ラモニ・カハール。1906年にノーベル賞を受賞した脳の研究者である。若い頃の度が過ぎるほどのいたずら、苛酷な軍医生活、一転して王の結婚式の爆弾事件も知らずに研究に打ち込む姿。本書に描かれた、このスペイン生まれの研究者の生涯はなかなかに波乱万丈、といえるだろう。論文をスペイン語で書いてもなかなか世界レベルでは読まれることがなく、広まらなかったことなどはなにか以前の日本の科学研究との類似も感じるところである。
以前紹介した「脳の風景」でカハールの業績を読み、もう少し知りたくて本書を読んだ。神経細胞の探求の話なので、この方面に縁のない読者には難しいかもしれない。しかし現代の私たちが考える神経細胞の姿は、ほとんどこのカハールが提唱したものなのだ。そのあたりの基礎を、序章を使って著者がかなり丁寧な説明を入れてくれているのでありがたい。
ノーベル賞は意見が対立するゴルジとの同時受賞だった。神経研究の形態学的進展にどちらも貢献したということだろう。ゴルジは決定的な進展のもととなった染色法を発見したが、神経細胞のありかたについて結果的に間違った論に固執した。しかしその名前はこの分野では学生でも知っている。一方、丹念な観察で正しい神経細胞の姿を推論したカハールの名前を知る人は少ない。研究者を知るものには、複雑な想いがよぎる。
カハールはさまざまな動物で神経を染め、観察した。挿入されている顕微鏡観察図はどれも緻密で美しい。写真の現像方法などもカハール自身で工夫した時代であるし、立体的に広がっている形態を顕微鏡の焦点を変えながら描き、全体像をつくっていったのだろう。
この「手で描いた」というところが、正しい神経細胞の姿にたどりつくことに重要だった、と考えたい。もし立体的な形、隣りの細胞との接近する部分の微細な形がいきなり写真に撮れていたとしても、そこに注目して意味を考えることができただろうか。一本一本の枝分かれをたどり、接近しても決して融合していないことを見極めて描いたのだからこそ、カハールは正しい姿に到達できたのであろう。(神経細胞の間は化学物質の受け渡しで信号を伝えていることがその後に明らかになっていく。)
カハールと同じことを繰り返す必要はないだろうが、これから学ぶ人たちも、一度は自分の手と眼で確認をすることをしてほしい。そのことは次へのステップをより自分のもの、確実なものとすると思うからである。
カハールが書いた文章がいくつか引用されているが、科学や自然について、深みのある示唆に富んだ文章であった。著者が「本書はその縮小版」であると書き、「数ある科学者の自叙伝のなかでも傑作といわれる」自叙伝があるらしい。本書にもところどころ引用されている名文が載っているものなら、ぜひこちらも読んでみたい。
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