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紙の本
オヤジネタの勝ち
2008/02/24 22:42
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:SlowBird - この投稿者のレビュー一覧を見る
いわゆる企業小説とか経済小説という範疇の作品を集めた中編集。高度成長期まっただ中にあって、企業不祥事から外国資本に喰い散らかされる日本企業の苦闘を描くのは、当時としてはスキャンダラスだったろうが、現代に至っては本質を突いていたのだと見ざるを得ない。
戦後がむしゃらに働いて会社の事業を拡大してきた男が、大銀行間の利益争奪に巻き込まれる「詰め腹」。実力一本でのし上がって来たところに、大資本の陰謀、それに善意ではあるが無垢な官僚までも加わっての、今で言うところの「護送船団」に踏み潰されんとするわけだが、しかし彼も私利私欲のみでここまでやってきたわけではない。それだけで血の小便が出るまで働くことはできない。仕事を愛し、会社を愛し、国を愛した上でのこの仕打ち、大いなるジレンマに襲われる。
国民にとって夢の代表格のような宇宙開発の世界、科学者と技術者の純粋な努力にもまた、利益追求の嵐が襲いかかる「作戦ー"青"」。官僚、銀行にマスコミが加わり、さらにその背後で外国企業が糸を引いている構図。ペンシルロケットから始まり三段式にまで進歩した、日本の誇る技術力の成果がそうして奪われてしまうことに、利益云々より先に「汚される」という印象を持ってしまう。それは純粋すぎるのかもしれないが、その何が悪い? それらの想いにこそ果実は実るのではないか。
そして銀行の不祥事と謀反の顛末「男の誇り」、ラジオ局の宣伝部長が、広告を奪われつつあるテレビ戦いを挑む「怠慢なり宣伝部長」。それぞれに実力と心意気をかけて仕事に挑み、勝っても負けてもその姿は潔い。時に雌伏し、時に時流に逆らうのも、またそれぞれに仕事として、個人としての事情がある。純朴のようで、それでいて年輪相当に屈折している、男も女もだ。その正直さに、思わず手に汗握る。よくもこれだけ面白いネタを集めてくるものだと思う。そして人々の気持ちをよく汲み取っている。喜びも悲しみも幾年月。文学青年の苦悩、人生とか自分探しとかよりも、手形をきちんと落すこと、社員の生活を守ることが大事だ。そういった諸々が浮き出てくる題材をうまくすくい上げてくる嗅覚は並々ならないというべきだろう。それを愛人やジャーナリストなど、題材毎の視点の変え方も、世の中を裏から斜めから覗いて見てきた経験に裏打ちされているのだろう。オヤジ受け、そうかもしれない。
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