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大江健三郎は、作家としてのキャリアの早い時期に、3冊のエッセイ集を出している。それらは、「エッセイ集 第一」「エッセイ集 第二」「エッセイ集 第三」と名づけられている。本書「厳粛な綱渡り」は「エッセイ集 第一」に相当する。「第二」は「持続する志」、「第三」は「鯨の死滅する日」というタイトルを持っている。
「厳粛な綱渡り」は1965年の発行。大江健三郎は、1935年生まれなので、筆者30歳の時のエッセイ集ということになる。大江健三郎が世に出たのは、1958年の芥川賞受賞の時からなので、本エッセイにはそれから約7年間のものが収められている。とても分厚い本で、500ページを超える単行本である。この時期、大江健三郎は、小説も多く書いており、キャリアの初期においては、多作の作家だったということだ。
最近ずっと、大江健三郎の本を続けて読んでいる。読んだ本の中に「大江健三郎 同時代論集」という本がある。「大江健三郎 同時代論集」は1980年、この「厳粛な綱渡り」の15年後に発行されたものである。それは10巻セットになっており、私が読んだのは、その1巻目だったのであるが、今回、この「厳粛な綱渡り」を読んでみて、その「大江健三郎 同時代論集1」が「厳粛な綱渡り」からの抜粋でつくられていることを知った。
従って、この「厳粛な綱渡り」の感想は「大江健三郎 同時代論集1」で書いた感想と同じである。再度書くと、大江健三郎は、この「厳粛な綱渡り」の中のエッセイを書いた20代に、多作であったばかりではなく、非常に幅広い分野の仕事をしている。小説以外に、政治的・時事的なエッセイ、文学評論、作家論、芸術評論、更にはルポルタージュも書いている。大江健三郎が多くの方面の才能を持っていたということもあるのだろうが、当時は、20代の若手作家に、そのような仕事を任せてみようとする時代だったのだとも思う。
なお、大江健三郎は、自分の書いたエッセイ等のいくつかのものの出来に、あまり自信を持っていなかったようであり、「厳粛な綱渡り」の中で、「これは読んでいただくとありがたい」というニュアンスのものに*印をつけて、本の中で示している。「大江健三郎 同時代論集1」には、その*印がついたものが掲載されているということになっていた。