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『大乗起信論』の内容についてていねいな解説をおこなっている本です。
『大乗起信論』の本文と書き下し文、現代語訳がならべられ、それにつづけて著者による解説がなされています。「はしがき」によると、本書は著者が大学で2年にわたっておこなった授業の講義ノートがもとになっているとのことで、著者の講読の授業に参加しているような気持で読むことができる、優れた入門書だと思います。
『大乗起信論』については、近年の大竹晋による詳細な文献学的研究の結果、中国撰述説がきわめて有力なものになっており、従来の文献学的研究は大幅な見直しがせまられています。ただし、著者の『大乗起信論』にかんする文献学的研究成果は、すでに前著『大乗起信論の研究―大乗起信論の成立に関する資料論的研究』(1981年、春秋社)にまとめられており、本書の叙述は思想内容にかんする解説に限定されています。そのため、本書にかんしては現在でも、『大乗起信論』の思想内容についてみずから考えようとする読者にとっては有益な手引きとなりうるのではないかと思います。