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精神科救急のパイオニアがそのコンセプトや醍醐味について一般向けに解説した本。
譲り受けたのは92年版だが05年に新版が出ている。薬物療法や法制度に関しては新版のほうが良いだろう。根本は同じ、というより25年の歳月を経てなお新しいと感じた。それが古典としての地位を得たためか、精神療法が停滞しているためかは不明だが。著者は時間を非常に重要視していて、治療段階を時間で区切って退院までにタイトな時間的制約を設けるって話は、他ではあまり聞かないのではないか。精神病の時制の話も興味深い。
一般向けと銘打っているが内容は骨太。サラリと書いてある一文に思わず唸ることも。
関係性:つまり世界との関係(精神病の枠組みについて、p.79)
や、
言葉の意味の共通性が失われている(p.81)
など。このあたりは後年成書に起こされたようだが、この文一つ一つに章を割いてほしいくらいである。
また、対人援助職としては
これから先のことについて一緒に思いをめぐらすには、横に座っているのがいい。二人でへたり込んで、額を寄せ合って「これからどうしようか?」とヒソヒソ談合しているという図、そういう感じこそベストだ(p.88)
こういう情景描写にグッと来てしまう。
あと、電気けいれん療法については、良しとする人から悪しとする人まで是非一読されたい。道徳とは別の次元で電気けいれん療法のリスクとベネフィットが、あくまで治療的な観点でキレイにまとめられている。
著者の作品の中では文体がソフトな方で読みやすい。