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紙の本
これで一息つくほどの安堵感をもたらす「小説・太宰治」
2009/06/10 00:43
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:JOEL - この投稿者のレビュー一覧を見る
「小説・太宰治」は実に、太宰の姿を生き生きと描き出している。太宰の残像を追い求め、いろいろな書物に目を通してきたが、ついに求めていたものにたどり着いた感じがする。
といっても、檀一雄という作家のフィルターを通した太宰の姿である。そこには、太宰の本当の姿とのズレがあるに違いない。たとえそうであっても、受け入れ可能なほど、豊かな描写がここにはある。
太宰につきまとう自死願望は、それをもって自己の文学の完成と太宰自身が見なしていたため、太宰から抜きがたいものとして存在し続けた。このことも、檀の手によって説得力をもって理解することができた。
それにしても太宰という存在は、尋常ではない個性の光を放っていたことを、檀は教えてくれる。現代は個性を育てる時代などというが、私たちは果たして太宰の際だつ個性に並び立つだろうか。しばし自問してしまう。
自己愛、自死願望、愛嬌、わがまま、文才、無責任、妄想癖、想像力、いくらでも列挙し続けることができる太宰の個性。
そうして、ふと気づいた。自分が生まれたときには、実は太宰はこの世の人ではなかったのであった。自分がまだ小さいころには太宰は実在の人物で、街を闊歩していたのではと、いつの間にか思いこんでいた。それは、とんでもない錯覚であった。没後60年なのだから計算が合わない。ああ、そうだったのか。ただ、そのくらい太宰の代表作が、自分と響きあっていたのだろう。
太宰が今日でも多くの人に読み継がれ、新たなファンを獲得し続けているということは、多くの人の心の中に、太宰がそれとなく棲みつく領域があるということに違いないと合点がいった。
「小説・太宰治」が教えてくれるようなとてつもないスケールでは、私たちは太宰の真似事などできない。その位、大きな存在だ。それでも多くの人は、自分自身の中に、写し鏡としての太宰を見出さないではいられない。それが太宰の太宰たるゆえんかもしれない。
ともかく、檀一雄の力作に喝采。檀なくしては、太宰への理解も進まなかっただろうと強く思った。
6月19日の桜桃忌はまもなくだ。特別な思いを抱いて、その日を迎えることにしよう。
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