- 現在お取り扱いが
できません - ほしい本に追加する
- 予約購入について
-
- 「予約購入する」をクリックすると予約が完了します。
- ご予約いただいた商品は発売日にダウンロード可能となります。
- ご購入金額は、発売日にお客様のクレジットカードにご請求されます。
- 商品の発売日は変更となる可能性がございますので、予めご了承ください。
1 件中 1 件~ 1 件を表示 |
紙の本
古典学者を名乗れる、ルネサンスの万能芸術家
2002/11/09 02:04
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:くるぶし - この投稿者のレビュー一覧を見る
ヴァザーリ(「芸術家列伝」、邦訳『ルネサンス画人伝』『ルネサンス彫刻家建築家列伝』など。いずれも白水社)がただ「画家」とだけ肩書きをつけている工匠でも、機械を組み立てたり、人形を作ったり何でもやっていた。総じてルネサンスの芸術家=工匠たちは、どいつもこいつもその程度には万能選手だった。もっともそれが「万能」に見えるのは、学問や芸術の分野で19世紀以降専門分化が進んだ結果、その「プロフェッショナル化」を当然とする現代人の偏見故にであるが。
そんなルネサンス人の中でも図抜けていたのがアルベルティである。自らを「文字を知らぬ者」と呼んだレオナルド(・ダ・ヴィンチ)などと違って-----もっともレオナルドも「絵画論」を著そうとした痕跡があるが------、アルベルティは古典学者を持って自らを任ずるほどの芸術家だった(彼はまたそうあることが芸術家にとって必要だと述べている)。彼は絵画、彫刻、建築をよくし、また新時代のそれら芸術の理論化にもあたった(線遠近法は、ほとんど彼の下で成立したといっても過言ではない)。アルベルティはまた芸術の諸分野と同様に、哲学、科学、古典学に通じ、倫理、愛、宗教、社会学、法律、数学などについて多くの著作を残している。「この人の知らざるものはありや」と呼ばれた人。彼はまた韻文も書き、そのルキアノス調の喜劇と対話編は、古代人が書いたものと見間違えられたほどだった。
アルベルティは、ヒューマニズム(もちろん人文主義の意味である)を旨とする初期ルネサンスを代表する(あるいは総括する)芸術家である。彼は芸術においてはゴシックをかたずけ、政治においては共和制の最盛期を迎えたフィレンツェを、理念の上でも代表していた(アルベルティにあっては、芸術は他の諸学と同様に、公共への奉仕を目的とする)。しかし彼はその晩年、政治においてはメディチ家の台頭、思想においては新プラトン主義の隆盛に立ち会うことになる。
フィレンツェの共和制は有名無実となり、芸術はいまや王者の如きコジモ・デ・メディチを飾り讃えるものとなった。またアルベルティが担った科学的理性の精神は、新プラトン主義により、思想の世界から押し出され、ただ芸術家=工匠たちの工房(アトリエ)に居場所を求めることとなる(幸いなるかな、新プラトン主義たちはその教義に忠実に、実生活や手仕事よりも思念の世界を好んだ)。科学者=芸術家たるレオナルドはそこからのみ生まれてくるだろう(レオナルドの文字=学問に対する隔たりは、そうした時代状況によるところが大きい。彼はもはやどのように才能豊かであったとしても、アルベルティのように古典学者たることはできなかったであろう)。
そして、メディチ家のサークルと新プラトン主義の象徴と神秘の中で育ったミケランジェロが、ヒューマニズムと工匠たちのルネサンスの幕を引く。彼によってはじめて、自然を測定し模写するのでなく、自らの霊感によって描く、近代でいう芸術家が登場するのである。ミケランジェロはレオナルドなどともちがって、ただ内的要因(衝動)にのみよる、多くの芸術作品の中断(すなわち未完成品)を残している。神や公共の利益に仕えんとする、以前の芸術家=工匠たちからは考えられないことだった。
1 件中 1 件~ 1 件を表示 |