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紙の本
そして世界は閉ざされて
2002/05/12 11:44
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:もなか - この投稿者のレビュー一覧を見る
表紙の「静寂」という第一印象があまりに強すぎたせいだろうか。それとも,秋霖のさなか,冷たく雨に閉ざされた夜に読んだせいだろうか。読み終わった時,自分が,そして世界が,透明で重く冷たい樹脂の海へと固く閉ざされてしまったような,そんな奇妙な気分がした。
——そう,主人公のカイの言う「ジオラマ」に,本当に世界が変じてしまったような気がしたのだ。
増殖し続ける無数の「キップル」。あの,捨てる事のできない記憶を背負ったガラクタ達の姿は,私達そのものの姿なのではないかと思う。感受性を失った大人達,土地の記憶とは無縁のアスファルトとコンクリートに覆われた街。その中でライトアップされた,巨大な樹脂漬けのキップルの塔。ラストでキップル達は,どう考えても現実の世界を駆逐してしまっている。
カイはあんな結末を望んではいなかった。けれども,彼の豊かな感受性を凝縮したメカザウルスは,ジオラマの中で行き場を求める記憶達を呼び寄せてしまった。そして,樹脂に閉ざされた記憶達は,もう二度と,ジオラマの世界には戻ってこない。
紙の本
繊細できらめくガラスのかけらのような鋭さがある素敵な作品。
2000/09/23 23:06
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:青木みや - この投稿者のレビュー一覧を見る
「ぼくのメカザウルスがどんなにすてきかってことを、どんなふうに話したら、きみにわかってもらえるだろう」。
出だしのこの一文を目にした途端、主役である少年カイの繊細な心が伝わってくる。「ぼくのメカザウルス」をぼくはとっても愛しているけど、それが他の人はどう思うかわからない、でもぼくは伝えたいんだ。あいつはほんとうに、すてきだってことを。
あいつは狂暴なガラスの青い目をして銀色に波打つボディを持っている。そして時間の中に生きている一億二千万年前の恐竜で、未来の恐竜でもあるんだ。あいつはメカザウルスなんだよ。
カイはメカザウルスに生きていて欲しかった。だから母親が捨てようとしたあいつを、少年達が『神殿』と呼ぶ木に登って枝に結びつける。そのせいだろうか。『神殿』の周りには、様々なガラクタが括りつけられるようになる。カイはそれを『役に立たなくてもとてもすてきな物たち』の意味を込めて『キップル』と呼んでいた。だが、『キップル』はゴミの不法投棄扱いとなり、木の伐採騒ぎが起こる。
木に日参するカイは『命名芸術家』を標榜する石膏像のような男やキップル達を撮りに来るカメラマンに出会い、「初めの一滴を落とした少年神ナギ」に祭り上げられた。
そして石膏像は、増えていく『キップル』と『神殿』を生成する廃墟ー芸術品として『ノスタルギガンテス』と名付ける。
木は名前を呼ばれて力をなくしてしまったのだろうか。木はカイと切り離されて、飼い慣らされたただの装置になってしまった。それはカイの望むところではなかったのに。
描写が色づいているというと変だが、出だしから色の奔流である。海の青、金色の棘、銀色のねじ、木の濃い緑、そして降り注ぐ光。非常に美しいイメージを喚起させるリズムを持っている。詩を多数書いている寮氏ならではの表現に一瞬で世界に引き込まれる。
少年が持っていた不思議で抽象的な広がりを持つ世界は、曖昧さを許さないひとびとによって確定され具象化され、閉じこめられてしまう。
少年は、か細い抵抗を続けるが、それをとめる力はない。大人になるということは、安全だが決まり切った狭い繰り返しの日常に埋没し、世界を閉じて固まってしまうことだろうか。作品中には喪失感、無力感、絶望というおよそ児童文学(という扱いのはず)には向かない感情が見え隠れし、切なさが波のように押し寄せる。忘れたくない世界を持ち、繊細できらめくガラスのかけらのような鋭さがある素敵な作品。