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紙の本
狂う、爛れる
2005/11/11 14:46
4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:つな - この投稿者のレビュー一覧を見る
全編を覆うのは、熱。二人の男の熱、気が狂いそうな暑い夏。照柿という赤色の一種。「熱」のせいか、いつもの緻密で這う様な高村節に、更にねっとりとした感触が加わっている。
二人の男とは、シリーズの主人公でもある合田雄一郎と、彼の幼馴染にあたる野田達夫。
合田雄一郎の「熱」は、刑事である彼が追っている「ホステス殺し」。彼の照柿の色は、線路から見た電車の臙脂色。他の作品では、硬質な石の様な印象を人に与える彼が、すっきりとして容赦ないまでに清涼な彼が、この「照柿」では狂ったように一人の女性に執着する。
一方の野田達夫の「熱」は、彼が勤めるベアリング生産工場の熱処理棟の灼熱。彼の照柿の色は、熱処理棟の老朽化した炉の色。
二人の男を繋ぐのは、佐野美保子という女。高村作品では女性が描かれないことが多いけれど、今回は美保子が重要な役割を果たす。とはいっても、男に惚れられる、というだけでは重要な役割とは言い難いだろうか。彼女の行動に整合性は見られないし、彼女をあらわす言葉は「不機嫌」。何を考えているのか窺い知れない、深い穴のような女性。熱い男たちとは違い、美保子の存在は冷たさを感じさせる。切れ長の、大きく、冷たく、深い穴のような目を持つ女。白く光るふくらはぎ。
三者の出会いは、悲劇的様相を呈し、それぞれに狂った結末を迎える。
紙の本
気が狂いそうな暑い夏
2002/08/12 08:03
1人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:もぐらもち - この投稿者のレビュー一覧を見る
8月の猛暑が悪いのか、35歳という年齢が悪いのか、はたまた職場のストレスが悪いのか。「長年被り続けてきた人生の表皮」が剥がれてしまう二人の男性の物語です。
突然、目の前にやってきた人生の落とし穴にすっぽりとはまってしまった二人の末路が悲しい。題名の照柿(てりがき)とは、熟した柿の濃い臙脂色のこと。その色から想像されるとおりの物語でした。
紙の本
慟哭
2002/05/09 01:10
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:うり - この投稿者のレビュー一覧を見る
まさに、胸をえぐられるような一冊。
声をあげて泣きたくなった。けれども、甘美な悲劇なんかじゃない。
同じ合田刑事を主人公に据えるも、あの疾走感ある『マークスの山』から一転。
人を思う気持ち。合田雄一郎の、女へ、友人へ、故郷へ、
そして仲間達への湧き出る様々な想いが荒々しく描かれ、
前作が河の濁流なら、この『照柿』は海の潮のうねりのように重い。
そして読む者の心拍数は前作同様、いやおうなしに上がってゆく。
いったい雄一郎の心はどこにあり、どこへゆくのか。
歯軋りしながら歩いてゆく人生のリアルさがそこにある。
4行間に託された“何か”までをもさらうように見つめた498ページ2段組。
その全てを読み終えたとき、まるで泣き疲れて目覚めた朝のような、
濡れた軽さが心に甦った。
紙の本
気が狂うほどの熱を
2002/03/11 17:12
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:sayu - この投稿者のレビュー一覧を見る
17の時に初読した。本から登場人物の絶叫が聞こえてきそうだった。熱くて苦しくて気が狂いそうで、あまりに辛くて2度と読むまいと思った。
26で再読した。自分の中に、熱を、発狂するほどの熱を呼び戻したかった。でも、やってきたのは、むなしさ、悲しさ、疎外感、自分がなにものでもないという怒り、身についた諦め、どこへも行けない閉塞感、中途半端さ、砂を噛むような時間だった。
8月2日のその日、捜査一課・合田雄一郎の目の前で線路に転げ落ちた中国人の女。それを追いかけていた男。男を追いかけていた女・佐野美保子。美保子と14年前に関係をもった男・野田達夫。雄一郎は駅で美保子に一目惚れし、達夫は雄一郎と兄弟のようにして育った男だった…
事件は八王子のホステス殺し。賭場で借金を作っていた土井は事件に関係あるのかないのか。謎はその1点のみ。あとは、ひたすらに雄一郎の心のありようが描かれる。
石と称される雄一郎の内にある激情。しばしば清涼と見受けられる外見とはうらはらに、固い表面の中にある溶岩。それを持てあまし、殺し、噴出させるさまがこれでもかと描かれていて、苦しい。
夏の熱、溶鉱炉の熱、夕日、照柿、線路に散らばった赤い女の服、雄一郎の同僚・森の発疹、血、赤、赤、赤、赤…。そこに挿し入れられる、美保子の水色のスカート、青いワンピース、達夫の父が描いた群青の三角。散りばめられる、青。熱と色と———