紙の本
これぞ、プロフェッショナル
2006/07/29 20:57
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:栗太郎 - この投稿者のレビュー一覧を見る
唐突だが、社会人の皆さんは日常の仕事で、自分の力を何十パーセント出しているだろうか? 私は平均で出力60パーセントというところだ。多忙な時やトラブルが発生した時で80パーセント。と言ったら、友人から怠け者扱いされた。怠け者説を否定はしないが、え、そんなものじゃないのか?
人間が能力の100パーセントを出す事態は、それこそ生死に関わる緊急事態であり、そうした時でさえ、出力100パーセントでは、48時間ももたないのではないだろうか。消防や警察、医師など私たちの安全や生命を守ってくれるプロフェッショナルとて、それは同様。コンスタントに不足ない力を出す為に、日々鍛錬し基礎能力をあげているのだろうと思うと、頭が下がる。
さて、「アポロ13号」だが、トム・ハンクス主演で映画化されたので、ご存知の方も多いと思う。本書は1970年、月着陸を目前にして大事故を起こしたアポロ13号についての実録ドラマだ。船体は破損し、さらに酸素、燃料、電力が全て危機的状況という絶望の淵から奇跡の生還に向けての、まさに出力100パーセントの闘いを、宇宙船の3名と地上NASAのクルーの双方から描いている。650ページ超の本文はボリュームたっぷりだが、一気に読んでしまう。
NASAの職員と言えば、超エリートという印象がある。飛びぬけた頭脳を持ち、自分の専門分野に対しては、ややオタク的な拘りと熱意があるのでは? そんな予想を覆すことなく、本書には各分野の天才が出てくる。緻密な計算によって足りない電力を何とかやりくりする者、即席二酸化炭素濾過装置を考案する者……
さて、そんな天才集団だが、彼らが自身の専門分野に集中する為には、全体を見渡し適切な指示を下す頭領が必要だ。それが飛行実施責任者である。
飛行実施責任者には絶対的な権威があり、その指示には一片の疑いや反論も差し挟むことはできない。飛行実施責任者は取り仕切る事柄の総てについて、責任を負うのだ。この任に必要とされるのは、個々の分野における専門知識や頭の良さではなく、広い視野と指揮能力、そして何より胆力である。そして、彼は出力100パーセントで働くわけにはいかない立場だ。ギリギリ出し切ってしまったら、不測の事態が起こった時に対応できず、彼が折れれば全体が崩壊する。
アポロ13号の事故当時、この飛行実施責任者はジーン・クランツ(映画ではエド・ハリスが演じていて、えらく格好良かった)、なんと36歳だ! むろん、本人の能力だけでなく、それを可能にするシステムそのものも無視できない。
「クラフトは以前はクランツの先輩であり今は彼の上司になっているが、今夜、ここで、自分が果たすべき任務は心得ていた—それは、基本的に言って、なんでもクランツがやってくれと言う仕事である」(227p)
というシーンを読むにつれ、さすがNASA、侮れんという気になる。
しかし、1970年である。当時のコンピュータの性能を考えると(当然のことだが、今や当たり前のWindowsなど影も形もなかった)、よくぞ宇宙旅行に挑戦しようと思い立ったものだと感心する。映画では、複雑な計算式の結果が合っているか、みんなで検算する場面があるのだが、筆算する人や計算尺(電卓ではない!)を使う人がいて、ある意味で感動的だった。
科学技術は進歩したが、人びとの熱意や能力といったものは逆に退化しているのでは、と思うこともしばしばの今日この頃。本書を読んで、真のプロフェッショナルの姿を堪能したい。
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同名映画の原作。当事者の話ということでアポロ1号の事件から13号に至るまでのクルーの心境が丁寧に描かれている。立花隆の同名本とは食い違う記述もある。
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冒険にはトラブルが付き物ですが、アポロ13が遭遇したトラブルからの脱出には十分に訓練され、機械を知り尽くした人たちが力を合わせてどうにか手に入れた脱出でした。
…と、内容を書いて行ってもかなり色々な事が書けるのですが、一番感じたのは、「この頃のアメリカは、すごく強くエネルギッシュな国だったんだな」と言うことです。
また、未来に向けて国を上げて邁進していけるアメリカに戻って欲しいと感じました。
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危機発生時のチーム運営は見事
巨大プロジェクトでは分業は必須だが
どこで不具合が入るか分からない
チェック体制をどのように築くか
映画もおもしろかったけれど
こちらも色々と考えさせられとてもよかった
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ハラハラドキドキでした。仕事に誇りを持っている技術者たちの話(主人公の宇宙飛行士も含めて)。かっこいいと思いました。
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2009年秋に読み終わった本
1970年に3回目の有人月着陸を目指して行われた飛行だったが、途中で酸素タンクが爆発して、月着陸を中止して地球に戻ってきた話。著書の一人のジムラベルはこのときの船長。
司令船と月着陸船を連結して月まで飛行するわけだが、酸素タンク爆発で司令船にあった生命維持のための酸素・水・電力がほとんどなくなってしまい、着陸船にあったわずかな酸素で命をつないだ。着陸船はもともと月周回軌道に到達してから使うはずだったのだが、月地球往復の旅程のほとんどを着陸船で過ごすことになった。暖房やコンピュータなどほとんど全ての機材の電源を落として、3人の飛行士は凍えながら無事帰還。機材の電源を落としてしまうのは、着陸時にちゃんと無事起動できるかどうかほとんど賭であった。暖房のない過酷な環境で、寒くてほとんど眠れない中、4日間にわたり、コンピュータのシャットダウン、手動でのエンジン始動・軌道修正やら、着陸前のコンピュータ軌道、とかいっぱいやることがあって、しかもどれもまちがいたら命がないという状況を無事乗り越えてしまった。
この本は何回も読んでるし、映画も何回も見ている。
http://hydrocul.seesaa.net/article/146963579.html
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アポロ13号の発射・帰還までのドキュメンタリー。
著者は13号の船長だけど、書きっぷりが一人称じゃないので、映画を見ているような感覚。面白い。
13号は、月を向かう途中で故障が発生し、急遽月着陸を断念して、地球に帰還するのだけど、なんせ故障がでたロケットだけに生きるか死ぬかの中で、パイロットやNASAの管制官達が冷静に情熱的に対応する様がかっこいい。
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非常に手の込んだノンフィクション。そして文句なく名作。
時系列や場所、視点まで何度も行き来する上に、きっちり伏線まで仕込むなど、謎のがんばりがついている。そのあたりがややうさんくさいにしても、ノンフィクションと小説の境目、エンタメと実話の境目を意図的についてきた感じがする。
フロントエンドたる宇宙飛行士とバックエンドたる管制スタッフが協力して乗組員の全員生還を成し遂げたという点では、ひとつの、よくある映画的ストーリーで、実際の流れもその筋をたどっている。
しかし、読者もスタッフも、厳然たる事実を忘れてはいけない。結局この飛行は失敗に終わった。生還しても、失敗は失敗。勲章も賞状もないエンディングだったのだ。エンジニアの創意工夫・計算力・丁寧さ・誠実さ、これらはみな、最悪の失敗を回避するためだけに使われた。その点では大勝利なのだけど、政治的にはやはり失敗だった。
読み終えたとき、それに気づいてしまった瞬間、どこからか切なさがやってくる。
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人類の科学史上最も偉大な出来事のひとつ、アポと計画による月面着陸。
その中で発生した宇宙船の故障によるトラブルを綴った作品で、映画を観た後にこちらを読みました。
宇宙飛行士達の背景や地球で対処にあたるNASAのスタッフの様子など、静かに進行して行く中にも人々の誇りや意志の強さを見たように思います。
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当時は、小学生(年齢がわかってしまいますが)でした。世間は大阪万博の話題でもちきりだったと記憶してます。かろうじて事件を認識できる年齢でリアルタイムの時代に生きていながら、全く知りませんでした。「輝かしい失敗」。アメリカの底力(主要な役割を果たした人の多くが20代前半)を痛感させられる実話です。映画もよかったですが、この本もそれ以上に、読み始めたら止められない、そんな作品です。
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プロジェクトの意味、ミッションの成否について考えさせる本。
この事件をリアルで見た世代としては、真の宇宙空間でまだ一人の人間も死んでいないことが奇跡だと思える。
(コロンビア・チャレンジャー・ソユーズなどは出発時・帰還時の大気圏での事故。)
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アポロ13の事故~帰還について、アポロの船長だったジム・ラベルが著者となり、記している。アポロの記録は多く、その事故の詳細が随所に記されており、緊迫感なども伝わってくる。
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搭乗者の1人が語る、アポロ13の生還記。20年くらい前に映画化された時にはさして興味なかったものが、急に当時の事故について知りたくなり、手に取る。650pもある大著ながらすぐに引き込まれる。地上管制部とのやりとりなど、ぐっとくるところだらけで泣けてきた。事故後約50年にもなるが、今も多くの分析、解析が続いており、リスクアセスメント、マネジメントはじめ、安全設計のネタとして恰好の教材にもなっている。
本書は一般向けの記述がされている。より専門的に、例えば設計内容や爆発の経緯を物理化学的に分析している書などをあたってみたい。
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危機に直面してなお管制官たちの確かな自信が伝わってくる。スペシャリストの中でもスペシャリストであるという自負の現れか。