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エスニシティ関係の図書をAmazonで購入しようとすると頻繁に「この商品を買った人は...」に登場するのが本書だった。まあ,基本論文を翻訳したものであるのなら読んでおくべきだと思い購入した次第。収録されている論文は以下の通り。参考までに原著出版年を併記しておきました。
はじめに
序章 「エスニック」とは(青柳まちこ)
第1章 エスニック集団の境界(1969,フレドリック・バルト)
第2章 さまざまなエスニシティ定義(1974,ゼボルド・W・イサジフ)
第3章 都市におけるエスニック集団(1977,エドゥイン・イームズ,ジュディス・G・グールド)
第4章 部族からエスニシティへ(1978,ロナルド・コーエン)
第5章 キリスト教でもユダヤ教でもなく(1982,アニヤ・P・ロイス)
エスニシティ関係の人類学文献リスト
あとがき
実際手にして分かりましたが,本書は人類学におけるエスニシティ論文を集めて翻訳したもの。そして,訳出された論文は1969年から1982年と,マーカス・フィッシャー『文化批判としての人類学』出版年である1986年以前に書かれたものばかりであり,この頃にエスニシティ概念を取り込んだ人類学の議論にはほとんど批判的観点がないことに驚かされる。
社会学におけるエスニシティ研究は,マイノリティ研究であり,マジョリティのナショナリティに対するマイノリティのエスニシティというのが私の単純な理解だったが,この頃のマイノリティの定義ナショナリティと対概念どころか類似概念とされていることに驚く。
第1章のバルトの論文では,「境界」という概念が主題になっているが,地理的境界とはほとんど関係がなかったり,社会学的境界と理解したとしてもあまり議論が深いとはいえない。第4章だけは多少読み応えがあった。コーエンによれば,この頃の人類学におけるエスニシティ概念の導入は,それまで使われていた部族(おそらくtribe)に代わって新しい概念が導入されることで,これまで人類学は調査者と被調査者は基本的に別世界の人間であり,場合によっては前者が後者を差別的なまなざしでとらえており,まさに植民地主義の枠組みで理解されていた。そういう意味では,ポストコロニアルな転回は少しずつなされたのかということも感じられる。
まあ,ともかく刺激のある読書ではなかったが,逆に当時の人類学の状況を少しでも垣間見れた気もします。