紙の本
したたかで手強い、戦いと略奪の危険を理解し対処している村の姿
2002/05/29 04:50
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投稿者:sfこと古谷俊一 - この投稿者のレビュー一覧を見る
日本の戦国時代の村落の意外なありかたについて、当時の日記他の文書をもとにして解説する本です。
いざという時に逃げ込み立てこもるための村の城、領主との契約による相互の地位協定、村の武力のありかた、村落共同体の生き残り戦略、人質の誘拐という交渉手段。などなど目から鱗が落ちる内容が盛り沢山となっています。
江戸時代でさえ「村と領主の関係は契約であり、契約に反した場合には逃散(ストライキ)で対処された」という感じで。これを見てると、明治以降の国民国家としての日本にくらべればすっと自立自尊で対等の関係だったんだろうなあ、という感じですね。アメリカなんかは、いまも似たようなとこあるでしょうね。
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1997年刊行。「雑兵たちの戦場」(旧版95年刊)で知られる著者が、そこで描き出そうとした中世/村の実相を、引用文献を一層増して叙述したもの。平時戦時を問わず、領主に対抗するべく村の住民が採ってきた方法論(逃散だが、ストライキと考えると判り易いかも)を丁寧に描く。また、戦時における商人の役割、暗躍(兵糧米や軍米を戦場で高値で売りつける。大阪の陣でも東西両軍に対してそうであった)が生々しい。文献引用が多いので、説得力は高い。城の役割、民衆の歳時記、領主の一方的支配ではない実態等が描かれる良書。
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渡辺京二の「日本近世の起源」で、この著者の著作が頻繁に引用されていたので、どんなものか読んでみた。
かなりのエピソードが引用済みのものであるが、より詳しい記述がある。例えば、村同士が抗争に明け暮れいたのは渡辺著が述べたとおりだが、周囲の村々や諸侯との力関係などを慎重に吟味した上で、暴力に及ぶかどうかが決定されていた様が分かる。
見解が分かれるところとしては、渡辺が百姓と大名の連続性を説いていたのに対し、こちらは兵農の分離ぶりを強調する。
徳政令は領主の代替わりの度に頻発され、村もそれを当て込んでいる節があった。徳政といっても何もかもチャラになる訳でなく、未納の年貢は帳消しだが、大名からの蔵米貸付はそのままというのが通常だったようだ。そのうち土地の売買の証文などに、徳政があってもこの契約は破棄されないとする特約を入れる例が出てくる。
・・・私有財産の保護が強まって市場経済の準備が出来てくるとも言えるし、逆に、徳政には徳政の事情があり、そうした中から漸進的に社会資本の整備が進んできたのだとの評価も可能だろう。
次の村役人を決めたりするだけでなく、誰が盗人かまで投票で決めていた。
中世ではこれを「落書」と呼び、いったん落とした書いたものはもう誰のものでもなく神意であるという、呪術的建付けであった。近世になるにつれ呼称も「入札」となり、記名捺印されるなど投票の意味が強まる。いずれにせよギリシアのオストラキスモスに通じる、共同体からの異物排除という自浄作用(カタルシス)を持っていたのだろう。
・・・近代以降はこの手のカタルシスは建前的には封印されているが、人間の本性としてはそれを求めているように思える。
終章では、おまけ的に著者の住む鎌倉の歴史を探る。鶴岡八幡宮は武士のものだが、祇園社を中心とした町人の風俗もしっかりとあったらしい。