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エジプト神話の入門書。序盤はエジプト神話における創世の概念が紹介されてて、そこら辺はなかなか面白い。また、古代エジプト語がコプト語と呼ばれるようになり、さらにそこからキリスト教がコプト教と呼ばれるようになった、という一連の流れは浅学のため全く知らず、へーという感じ。
初期コプト教の文書には、古代エジプト、メソポタミア、ヘブライ、イラン、ギリシアなどの古代思想が混淆した世界の起源が綴られているそうです。この本で紹介されているものも、確かにキリスト教の創世記とギリシア神話の雰囲気が色濃く出ています。世界が創られていく中で、兄弟や親子間で戦いが繰り広げられるというのも、非常にギリシア神話的。
本のサブタイトルにもなっている兄弟神の間の争いもいくつか紹介されてますが、他の神話と少し毛色が違うのが、代表的と思われるホルスとセトとの争いの理由が「どちらがより高次の神か」とか「どちらが地上を支配するか」とかではなく、「どちらが上エジプトと下エジプトを統一して支配するか」という、言っちゃえば領土争いという、比較的スケールの小さい話ということ。実際の人間の領主間の争いがそのまま神話になってしまったような感じですが、このぐらいの現実味のある争いの方が、当時の肌感覚に合っていたのかもしれません。
後半はいくつかのパピルスに残された神話や死者の書の内容が写真入りで解説されていて、それなりに読みごたえはありますが散文的な印象は拭えず、エジプト神話の全容をこの本で捉えようというのは難しいです。元より、まとまっていて整った原典がないのかもしれませんが、エジプト神話を総括的に理解したいならば、他の本にもあたってみたほうが良いでしょう。