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まっぷたつの子爵 ベスト版 みんなのレビュー

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みんなのレビュー12件

みんなの評価4.0

評価内訳

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3 件中 1 件~ 3 件を表示

紙の本

自分の中の他人、あるいは妥協の大切さ

2009/12/02 17:43

3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:風紋 - この投稿者のレビュー一覧を見る

 1716年、オーストリア対トルコの戦争で、メダルド・テッラルバ子爵は砲弾でまっぷたつに分断された。そして、それぞれ半身のまま二人の人間として生き続ける。
 不思議なことだが、本書にはほかにもたくさんの不思議な、または奇妙な人物が陸続と登場する。
 メダルド子爵の父親アイオルフォ老子爵がそうだ。鳥だけを生きがいとし、大きな鳥籠の中にベッドを持ち込んで昼夜わかたず暮らすのだ。
 あるいは、聖器と聖典を失ったユグノーたちの部落。
 あるいは、また、領主の悪意から追放された者を受け入れるハンセン氏病患者の集落。
 そして、心を傷めつつも能率的な絞首台を製造するピエトロキュード親方に、患者をちっとも診ようとしないで人魂を追いかける医師トロレニー博士。

 メダルドの右半身は悪行のかぎりを尽くし(悪半)、左半身は聖者のごとく善行に勤しむ(善半)。
 善半を含めて、双方とも住民から蛇蝎のごとく嫌われる。善も極端になると人間の域をはみだすのである。
 両者が同じ一人の娘パメーラに惚れこんだ。当然、決闘だ。
 ところが、あーら不思議、彼らが剣を突く位置は、相手の欠けている半身の箇所、つまり自分の身体があるべき箇所ばかりなのだ。
 当然、決闘はケリがつかない。ケリは、二つの半身が合体することでついた。
 かくて、善半および悪半はひとりの人間となった。二は一に帰し、完全な体を有するにいたっただけではなかった。「しかも彼にはひとつになる以前の経験があったから、いまでは充分に思慮ぶかくなっていた」

  *

 1952年に原著が刊行された本書は、『木のぼり男爵』(1957年原著刊)、『不在の騎士』(1960年原著刊)とともに「われわれの祖先」三部作をなし、その嚆矢である。
 善悪に引き裂かれた人間をメダルド子爵に仮託する。俺は一個の他人である、とアルチュール・ランボーはいったが、善人のうち悪人が棲み、悪人のうちに善人が棲む。善悪の両面をもつのが人間だ。善一点ばりの人間は、悪のみの人物と等しく薄っぺらな人格でしかない。清濁併せ呑み、内面の戦いがあるからこそ、思慮深くなる。
 メダルドは一個人ではなく、原著刊行当時左右の政党の間で揺れ動いていたイタリアを諷するものかもしれない。右であれ左であれ、わが祖国・・・・。カルヴィーノは、「かろうじてパルチザンに参加するのに間にあった」世代の一人であった。

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紙の本

「彼の姿はどんなだろう?」−−頭にあれこれイメージを浮かべてみる楽しみ。短いけれど感受性に深く訴えてくる傑作読み物なのだ。

2001/06/06 12:03

2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:中村びわ(JPIC読書アドバイザー) - この投稿者のレビュー一覧を見る

 1990年に代表作『くもの巣の小道』(今は絶版のもようで残念至極)が発刊された当時、ちょっとしたイタロ・カルヴィーノのブームが起こったような記憶があるけれど、この『まっぷたつの子爵』は一緒に紹介されることが少なかったのではないかと思う。少なくとも私は気がつかなかった。

 目に留まったのはやはりカバーの力が大きい。旧装版では装画が幾何学的なイラストだった。新装版では、ほれ、この通り。まっぷたつの男のユーモラスな絵が鮮やかに描かれているので「何だ、こりゃ?」と手が伸びた。

 トルコ戦争で砲弾を浴び、あろうことかまっぷたつに体が吹っ飛んだというメダルド子爵の姿とはどんなものであろうか−−と想像することが楽しい。だから、本当はこんな絵がついていると興ざめだと読み終わった今は言える。しかし、シニカルなことに、この絵がなければめぐり逢えなかった小説である。
 それと同じく、お話の中身も実に風刺や皮肉が利いている。

 語り手はメダルド子爵の甥っ子。「ぼくの叔父は…」という具合に出来事が紹介されていく。
 出陣時の叔父さんは血気さかんの若者で、見るもの皆珍しく、善悪の判断をこえて新鮮な気持ちで、おびただしい馬や人の死体を眺めていた(これが、とても大きな伏線になる)。

 先述の通り、戦闘で体がすべて半分しか残らなかった子爵は、軍医たちの見事なわざで一命をとりとめて故郷に生還する。
 半身を黒ずくめの衣装に隠した子爵の行動は極悪非道。鳥やカエルなどの生き物をまっぷたつに切ったり、まっぷたつの毒きのこを少年に渡したりしながら森を歩き回る。
 ささいな罪を犯した人々を死刑にしたり、放火の楽しみを思いついて多くの家を焼き払う。やけどの痕が治らない乳母はライ病者のゲットーに送り込まれてしまう。

 そんな子爵が羊飼いの娘に恋をする。娘は子爵に愛されたことを、牧場の花がまっぷたつにされたことで知る。娘も両親も生きた心地がしないが、どうやらこの恋が、子爵に変化をもたらしたようなのである。
 半身には子爵の悪い性質ばかりが宿り、良心は銃弾に吹っ飛んだ半身とともになくしていたが、失われた善き半身が村に出没するようになった…。

 まっぷたつになった人間を思いつくこと自体がすごいと思うが、それをどのように生かすかというところで、善悪に引き裂かれた魂を宿させて小説にしてしまうという発想が尋常じゃない。
 その背景に、隔離されたライ病患者たちの楽園とユグノー教徒の戒律に満ちた生活の落とし穴をもってきているところが深い。

 予想がついていかない面白い展開に読者を惹きつけておきながら、人間の価値判断に迫る。人の背後に控える暗く大きな闇の存在を考えさせる地平に、読者を立たせてしまう力。これって、ちょっと、すごすぎ!

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紙の本

もしかしたら善い機械をつくることは人間の力を超えているのではないか

2000/12/19 07:22

2人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:子房 - この投稿者のレビュー一覧を見る

 大砲の弾でまっぷたつになった子爵は右半身が悪人、左半身が善人となってしまった。それら両者が巻き起こす騒動を描いた愉快な寓話。

 とにかくおもしろい。皮肉も諷刺も単純で分かりやすく、笑いも素直である。文章は平易、くだらない風景描写などを連ねたりしないから読みやすい。彼はほんとに優れた作家だなあと思う。

 脇役陣も愉しい。人魂収集に熱心な医者トレロニー、二人の半身に愛される不幸な少女パメーラ。彼らの活躍あるゆえに物語もまたふくよかなものとなっている。

 皮肉でいちばん印象に残ったのは、善半(善人のほうの半身)とユグノー教徒の邂逅だろうか。善意とは何かということを考えさせられる挿話。

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