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紙の本
牛頓(にゅーとん)先生と休日の散歩
2007/01/22 22:19
4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:cuba-l - この投稿者のレビュー一覧を見る
牛頓とは寺田寅彦の俳号である。
寺田寅彦は物理学者にして俳句に関しては夏目漱石に師事し、また漱石の紹介で正岡子規とも親交があったことはよく知られているが、本書はそんな氏の多数の著作の中から「俳句と地球物理」というテーマで編纂されたアンソロジーである。
本書には氏の俳句作品とともに俳句への理系的見地からのアプローチとでも言える随筆が多数含まれているが、それは単にものめずらしいとか奇をてらったというわけではなく、一部の俳句愛好家や専門家の中だけの了解事項として一般には分かりずらい事柄を、光の宛て具合を変えて平易に読み解いてもらったような趣がある。
ちょうどこの本の中にも「電車の中で老子に会った話」という短い随筆があって、これは寺田寅彦が漢文と古めいた解説ゆえに取り付きにくいと思っていた老子道徳教をドイツ語訳で読んだところ、平易な文面がすらすらと頭に入ってきたという話である。
それはあたかも、古代中国の古めかしい身なりをしてこむずかしい御託を述べる年寄りが、洋服を着て電車で移動する気さくな現代紳士になったようだと寺田寅彦は感想を述べている。
まさに寺田氏の俳句論議は、この電車の中の老子同様、蓑笠に手甲脚絆の芭蕉翁を現代服の軽装に着替えさせて、「風流」「さび」「不易流行」云々、青空を見上げながら日曜日のテラスで話を聞くような趣がある。
俳句にも物理学にも詳しくはなくとも、観察すること思考する事の楽しさに溢れた本書は、柔軟な思考というものを例示してくれる、ちょっと知的な休日の本であるのかもしれない。
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