紙の本
批評家や職業作家としてではなく、人間というものにある程度の関心をもつ平凡な世間人のひとりとして書いたという指南書。20世紀文学の記述は少ないが、はっと目が覚める論点がいっぱい。
2002/02/23 21:46
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投稿者:中村びわ(JPIC読書アドバイザー) - この投稿者のレビュー一覧を見る
1969年に廃刊されてしまった米国の「サタデー・イブニング・ポスト」という週刊雑誌に3回連載された記事に、加筆訂正をして長持ちする形にまとめたものだということ。雑誌記事が元ということで、気軽に読める。読み通すのも1時間ちょっとあれば大丈夫…という感じだ。本を読む心がけとかコツなどが書いてあり、そんな短い時間のうちに、日頃の自分の盲目的な読書を目覚めさせてくれるようなアドバイスを多く授けてもらえた。私には「お得感」のある1冊だった。
どんな記述に目が覚めさせられるのか——そのひとつを挙げてみることにする。
世間には「自分には小説は読めない」という人がよくあるが、そういう人びとは、精神のすべてを重要な仕事にうばわれているため、想像上の出来事などに頭を用いる余裕はまったくないのだからと考えがちであろう…とモームは推察してみる。
だが、「それは思いちがいだ」と断定した上で、そういう人は自分のことだけに心をうばわれていて、自分以外の者の身におこることには、ぜんぜん興味がもてないか、想像力が不足していて、小説にあらわれた思想を理解することも、作中人物の喜びや悲しみに共感することもできないか、いずれかである…と指摘するのだ。
この記述はいささか乱暴なようにも思えるが、過去の自分のありようを振り返ると、深く納得できるものがあった。自分の身に振りかかった信じられない出来事に気をうばわれていた時期には、確かに小説どころではなかった。想像力以前に、集中力がおっつかないのである。想像力を惹き出せる余裕をもてることがいかに大切なことであるかがわかるし、逆に言えば、想像力を人からうばってしまうものの存在の邪悪さから身を守ることの必要も感じ取れる。
人間に関する事柄に興味をおぼえるだけの能力をもっている人なら楽しく読めるだろうから、ぜひとも読んでいただきたい。はっきり一流とは言えない著者は、ひとりでも取り上げる余裕はなかったとして、モームは「イギリス文学」「ヨーロッパ文学」「アメリカ文学」の3章立てで、作者と読むべき代表作、その特性などを紹介していくのである。
モームには『世界の十大小説』という労作もあるが、この本では、そこに選ばれたベスト10をも含め、多くの作家・小説が案内されている。モームの読書地図から、どのようにして10傑が選ばれたか、その価値基準がわかるようでもある。
ただ惜しむらくは、これが1940年に出されたものであるがゆえに、カフカとか米国のロスト・ジェネレーション、ラテン・アメリカやアジアなど20世紀文学の評価が欠けているという点である。そこには、新しい出版物に関して評価をするのは時期尚早、出版後2〜3年のものは読まないようにしているといったモームならではの頑固さがあるようである。
20世紀の手引きとしては、篠田一士による『ニ十世紀の十大小説』という素晴らしい指南書が私たちには用意されている(これは今のところ私にはツンドク本になっているのだけれど)。
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小説は読めないといっている輩は、想像力の欠けたものか、他人の身になって考えることが出来ない人間だと。この言葉に心を打たれ、目頭が熱くなった。自分の考えはまだまだ狭いことに気づかせてくれた。
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「月と6ペンス」、「人間の絆」など著名な作品の多いモームの小説案内。ちなみに原題は"Books and you"だとか。小説とは、自分が楽しいか否かで読むべきで、ちょっとでも合わなければ、読むのをやめていいし、面倒・退屈だと思った部分は読み飛ばしてかまわない、とさらりと言ってのけるあたりが好ましい。取り上げているのは、イギリス文学・ヨーロッパ文学・アメリカ文学から。例えば、ディケンズ、ゲーテ、トルストイ、ドストエフスキー、ポーなど。モームの語り方は何となくだが、好きだなぁ。
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いろいろ読みたい小説が増えた。
『クレーヴの奥方』の夫が気になる!
2010.10.16 購入/2010.11.14 読了
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本とあなたの素直な関係。そんな本。
名著と呼ばれる本や、まわりの人達がみんな面白いという本を楽しめなくても気に病むことはないんですよ。
たとえどんなに他の人と似ていても、あなたは他の誰ともちがうあなたであるように、その本はいまのあなたには必要がなかっただけなのですから。
なんつーと、胡散臭いがまあそんな本。そういった本来的ではない、本と自分の関係の外にある、社会的な、見栄やら虚栄やら群れ意識やらをさて置いて、本とあなたとのニュートラルな、シンプルで率直な関係に戻そうや。そのために、合わない本は率直に合わないでいいし、つまらん部分は無理して読むことなんてせず素直に飛ばしちゃっていいじゃん。そんな感じ。
そういった意味であとがきはとても良心的。さっそく文を読み飛ばす練習ができるんだから。
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ようやくモームの文章を読んで、素直におもしろいと思えた。要するにこの人はフィクションよりもエッセイの方がおもしろいらしい。もともとは雑誌に掲載されたもので、世界文学(といってもイギリスとヨーロッパとアメリカだけなんだけど)の中の、誰が読んでも文句なしに称賛できる、素晴らしい精神的富となる作品を紹介したエッセイ。「読書は楽しくあるのが本当だ」「一流の批評家がほめたたえようとも、あなたにとって興味がわかないのなら、その書物はあなたにはなんのかかわりもない」と堂々書いてみせるモームは、古き良き時代のイギリス知識階級の最も美しい姿を示して見せていると言える。色々な文学者へのモームの感想やコメントも、もったいぶっていなくて楽しい。
ちなみに。ここでもやっぱりトルストイの「戦争と平和」は壮大なすばらしい小説として称賛され、そのヒロインは「小説にあらわれたもっとも魅惑的な女主人公」とほめちぎられているのだが……私には、気分に左右される、一貫性のない、いつもその場限りで行動する頭の悪い女性にしか見えなかったのだが。うーん。モームの時代では彼女が魅力的だったってこと? それとも男の視点と女の視点の違い? 単に私の趣味が世間と違うだけ?
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楽しむための読書の姿勢に目が覚める思いをした。偉大な傑作と思っている書でも欠点があれば率直に記す態度にもさわやかな心地がした。
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古典文学…読んでないなぁ…
読みたいリストがまた一気に増えてしまった。
著者の好きさ加減が伝わる解説で、さらに読み飛ばしたっていいと、言われたら、手を出してみるかとなってまう
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「読書」という行為を改めて考えさせられた。読書は楽しいものだという原点を思い出させられた。
文字を読んで感動する、良く考えれば不思議だと実感した次第である。
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たとえ傑作と呼ばれるような小説であっても、自分がつまらないと思った箇所は読み飛ばして読んでも良いのだという考え方がなかなか衝撃的。
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「ある書物について(中略)あなたの興味をひかないならば、
その書物はあなたにはなんの関わりもないのだ。」
「読書の習慣を身につけることは、人生のほとんどすべての
不幸からあなたを守る、避難所ができることである。」
「ひとに何かを求めるときには、そのひとにできない
ものまで望むようなことがあってはならない。」
「読書はひとつの楽しみである。人生があたえてくれる
もっとも大きな楽しみのひとつなのである。」
「彼女は天賦の才能にめぐまれていた。しかし、
大した才能ではない。」
モームだなぁ。好きだ。
原題の"Books and you"が好き。邦題の「読書案内」も良い。
モームおすすめの本はいくつか読んでるものもあった。英文学を専攻していた身としては少しホッとした。
一つもなかったら「学生時代なにしてたんだろう…」と
思うところだった。。
しかし
「ひとに何かを求めるときには、そのひとにできない
ものまで望むようなことがあってはならない。」
なんてもう読書を超えて人生論だなぁ。
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古いけど、この頃から薦められている本は、今でも名作とされているのだなぁと気づかされた。もう、手に入らない本は、古本か図書館で探して読んでみたい。この著者の本からまず読もうと思う。
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『月と六ペンス』で有名なイギリスの作家サマセット・モーム(1874~1965年)が、米国の週刊誌「Saturday Evening Post」誌に連載したものをまとめ、1940年に発表したエッセイ集『Books and You』の翻訳である。
邦訳題の通り、イギリス文学、(その他の)ヨーロッパ文学、アメリカ文学の代表的な作家約40人、及びその作品についての評価が主であるが、読書についての心得なども綴られており、幅広く楽しめる。
心得としては、「わたくしがまず第一に主張したいのは、読書は楽しくあるのがほんとうだ、ということである。・・・ある書物について、学識ある人びとがなんといおうと、また、どれほど口をそろえてほめたてえようと、あなたの興味をひかないならば、その書物はあなたにはなんのかかわりもないのだ」、「かならずしも一冊ずつ片づけてゆかねばならぬということもない、とさえわたくしは考える。わたくし自身についていえば、同時に四、五冊の書物を読むほうが、わたくしの気持ちに一層ぴったりくる」、「とばしてよむことも読書法の一つ・・・『カラマーゾフの兄弟』のおわりの数章は、うむところを知らぬ読者でもなければ、とうてい完全にはよめるものではないのだから。・・・人びとの趣味がかわったため、すぐれた書物であっても、そのある部分は、現代の読者にとっては退屈でしかない」等。
また、作者・作品についてのコメントもなかなか刺激的である。
例えば、「誇張、卑俗、饒舌、感傷癖など、欠点はいろいろあるにせよ、やはりディッケンズが(英国)最大(の作家)である。彼はじつにおどろくべき作家である。彼がえがく世界は、わたくしたちが知っているそれとはちがう。・・・同じことができたのは、わたくしの知るところでは、彼のほかにはだひとり、トルストイのみである。・・・ディッケンズにたいし、ジェイン・オースティンは完璧な作家である」、「わたくしは、楽しく思えないような書物は、よんでもむだである、いっておいた。だが、いま『カラマーゾフの兄弟』の話をする段になってみると、わたくしは躊躇をおぼえる。この・・・小説を、はたして楽しんでよむことができるかどうか、疑問に思えるからである。・・・」、「最後にわたくしは、現代にマルセル・プルーストという過去の最大の小説家と肩を並べうる作家が出ていることを、注意しておかねばならない」等。
因みに、付録に掲載されている、モームが本書の後で選んだ「世界の十大小説」は、『ゴリオ爺さん』、『トム・ジョーンズ』、『デイヴィッド・コパフィールド』、『戦争と平和』、『白鯨』、『嵐が丘』、『赤と黒』、『カラマーゾフの兄弟』、『ボヴァリー夫人』、『高慢と偏見』である。
(2006年1月了)
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モームにとってみれば、やっつけのエッセイの一つなのかもしれない。余計な力の抜けた、奇矯なところのない、世界文学(といっても西欧に限る)名作リストアップである。
ほぼ定番のリストであるが、さしもにイギリス文学で紹介されるものは、日本人としてはなじみの薄い人も結構でてくる。
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【由来】
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【期待したもの】
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※「それは何か」を意識する、つまり、とりあえずの速読用か、テーマに関連していて、何を掴みたいのか、などを明確にする習慣を身につける訓練。
【要約】
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【ノート】
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【目次】