紙の本
この倒錯的な愛っていうのが、
2005/09/21 19:32
3人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:みーちゃん - この投稿者のレビュー一覧を見る
カバー装画 勝本みつる と書いてあるけれど、これはオブジェの間違いではないでしょうか。文藝の新潮社に訊いてみたいところです。収められているのは二篇、ほぼ同じ長さの中編「薬指の標本」と「六角形の小部屋」という幻想的な小説です。まずカバーの紹介文ですが
「楽譜に書かれた音、愛鳥の骨、火傷の傷跡・・・・・・。人々が思い出の品々を持ち込む[標本室]で働いているわたしは、ある日標本技術士に素敵な靴をプレゼントされた。「毎日その靴をはいてほしい。とにかくずっとだ。いいね」靴はあまりにも足にぴったりで、そしてわたしは・・・・・・。奇妙な、そしてあまりにもひそやかなふたりの愛。恋愛の痛みと恍惚を透明感漂う文章で描いた珠玉の二篇。」だそうです。
解説は評論家と書かれる布施英利。
解説の布施も、文庫カバーの紹介も「薬指の標本」のことにしか触れないので、黙殺された「六角形の小部屋」について書けば、それは私がその存在に気付いてしまったミドリさんと、その息子であるユズルさんがもうけている六角形の小部屋を訪れる、そこで私や多くの人々と、彼らを見守る二人の行動を静かに描く幻想譚で、ここにもカバーにある「奇妙な、そしてあまりにもひそやかなふたりの愛。恋愛の痛みと恍惚」の気配が濃厚です。
さて脱線です。夏休み中のことですが、次女が管弦で合宿中なので長女と二人で千葉県は佐倉にある川村記念美術館に「世界の呼吸法」という現代日本美術の展覧会を見に行きました。私が手にしたのがこの文庫で、長女は松田行正『眼の冒険』を持っての小旅行です。佐倉駅から30分近く送迎バスに揺られますから、ちょうどいいかな、と思いました。
ところが、あまりに長閑な外の景色と大胆なバスの揺れに、全く本を読む気になどなれず、ただただ荷物を運んだだけで終ったものです。で、家に帰ってこの本の続きを読み、何となく展覧会のチラシに目を通しました。で、あれ、と思ったんですね。美術館で講演があったのですが、その講師の名前が布施英利。そう、今読み終わったばかりの本の解説者でした。ま、これだけなんですが。
で、本題に戻りますが、「薬指の標本」の底に流れるのは倒錯的なエロスですね。主人公が、ちょっと少女っぽいところがあるのと、その指の標本の扱いが、何ていうか乱歩の小説を読んでいるような、そうですね、それはもう一つの作品にもいえて、語り口は違うんですが、傑作『押絵と旅する男』を思い出します。暗いよどんだ空気と、じとっとした湿度。うう、です。
その点、「六角形の小部屋」は如何にもファンタジーなんですが、ちょっとダークで、まそれは雰囲気や主人公が小部屋を訪れるのが夜ということもあるのでしょうが、まさにそういう感じで、これもどこか遠くから世界を眺めているような距離感と、そうですね、乱歩があやしい曲馬団を見知らぬ街で見かけて、そこに迷い込むような雰囲気があります。で、そこにほんのり香るエロスというか、官能というか。
ま、前者に比べると「ほんのり」というのが適当なくらいの微かなものですが、それがあります。でも、小川の作品というのは、まだ4作しか読んでいないでいうのもなんですが、限りなくモノトーンの世界ですね。色彩感はなくて、全体にグレーの紗がかかっているような空気が感じられます。ちょっと違うのですが、川上弘美と似た感じもあります。で、好きですね、こういう上品な湿り気というのが。なんだか霧の中を彷徨っているようで。きっと全作品を読むことになるんだろうな、そんな気がします。
紙の本
素敵な本でした
2015/07/08 21:12
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:愛美 - この投稿者のレビュー一覧を見る
好きな人に、身も心も全部支配されたいというちょっとマゾヒスティックな気持ちが前面に押し出された物語で、わかるわかると思いながら読みました。
この映画も大好きです。
投稿元:
レビューを見る
薬指の標本。わたしが勤める標本室。人々が思い出を持ち込み、保管するための場所。その標本技師とわたしの奇妙な恋の話。
六角形の小部屋。スポーツジムで見かけたミドリさん。その場所に溶け込むように居る彼女が気になり、偶然街で見かけたのをきっかけに後をつけることに。辿り着いた先にあったのは、六角形の小部屋。
両方とも、「世にも奇妙な物語」を髣髴とさせる不思議な内容でした。奇妙な世界に迷い込んじゃったのね。文章が綺麗だから恐さはないけど。でも、不思議〜。
投稿元:
レビューを見る
静かなエロスを感じます。
私は何を標本にしてもらいたいだろう…。
フランスで映画化されるそうです。
投稿元:
レビューを見る
静かで清潔、非現実感が漂う小川洋子の世界にどこまでもどこまでも浸っていたくなります。
こんな時代にこのような作家がいることに微かな救いを感じる。
投稿元:
レビューを見る
「標本室」で働く少女と、そこの主の…一応恋愛小説なのかな。靴に象徴される<封じ込められる>という感覚が、恋愛の切ない閉塞感と上手くシンクロしていると思う。フランスで映画化も決まってるそうだが、納得である。うん、邦画の雰囲気じゃないよね。
多分、「妊娠カレンダー」以来の小川洋子だと思うんだが、文章が洗礼されていて、驚いた。妊娠カレンダーではそういう印象は全くなかったのに。
地道にがんばってきたんだねぇ。
投稿元:
レビューを見る
静かなひんやりとした物語。薬指、ソーダ、靴…。私も標本にしたいものがあるんだろうか?それにしても妙なエロスがある作品。
投稿元:
レビューを見る
温かいようで冷たいところも少しあって、日差しとタイルの冷たさがすごくリアルに感じるおはなしでした。
ホコリのかぶった木棚や試験管や、ヒビ割れのたくさんある白いようなコンクリートの壁とか、きっと映らないくらいに汚れてしまった鏡だとか…
想像力がね、すごく引き出されるお話でした。
切なくてね〜 短編なので、すぐ読めちゃうんですが、ほんとに恍惚ってかんじがして、しかも読み終わったあともひきずられるような感じがします。
不思議な要素もたくさんあって、長野さんとはまた一味違うんですが…
フランスで映画化もされたそうなんですが、どうだったんだろう、また調べてみます。
けど日本で映像化されるんだったら、岩井俊二か『クロエ』の監督がいいかも〜
少し古いんだけどあったかいかんじの…
投稿元:
レビューを見る
ん〜・・・。結局何?という感想です。舞台や発想は面白いと思ったのですが、何となくその周囲のネタが霧散してしまっているような印象です。すみません。
投稿元:
レビューを見る
わたしが標本室に勤め始めてからもうすぐ一年になる。その前はサイダー工場で瓶に青い炭酸のサイダーを詰めていたが、その時に起こした事故で薬指の指先を欠けてしまった。工場をやめて街へでかけたわたしは、「事務員求む」の貼り紙をみつける。そこは人が持ち込む様々なものを標本にし保存する「標本室」であった。
初小川洋子でした。個人的には意外な読み心地でよし。
昨年本屋さん大賞を受賞した「博士の愛した数式」は見かけていましたが、きっと梨木香歩のような文体だと(タイトルから)思い込んでいたんですよね。がしかし、いやいや全然そんなこともなかった。早く読んでおけばよかったとちょっとだけ後悔(苦笑)
テイスト的にはファンタジーというより不思議。日常のはしっこにある不思議がそっと隣にやってくる感じ。時にぞわぞわして、時に穏やかになる。他のブログさんではそれを「静けさ」といってましたが、ああ納得よね。小池真理子の描くもう手の届かない隔たれた感覚と似ている気がする。ひたひたと侵食されていくのに、届かない。・・・箱庭かもしれない。
他、「六角形の部屋」も収録。これはもうすこしあたりが柔らかい。でも、やっぱり手が届かない、触れることの許されない世界。
投稿元:
レビューを見る
他の作品ではなんていっても「博士の愛した数式」ですね。でも、それよりもおすすめです。
とにかく読みやすい。すらすらすら〜と水のよう。水よりも薄いかも。
で、それが難点。話としてはもっと情念的でもっとしつこくてもOKじゃないかな。
弟子丸氏ももっと変態ちっくのほうが面白いと思うんだけど。
もともと素材が作家のテイストにマッチングしてないのかもしれない。近々フランスで映画化とか。むしろそっちのほうに期待します。
投稿元:
レビューを見る
淡々と話が進んでいくが、なにかちょっとファンタジー。さらりとした文体で、脳ミソにすーっと入っていく。
投稿元:
レビューを見る
2つの幻想短編集。ちょっとアヤシイ雰囲気が漂う標本室の物語。火傷の痕を標本にしたり。怖いけれどちょっと見てみたいような……。
投稿元:
レビューを見る
ミステリアス!そして、いろいろ考える。標本にするって、どういうことかな。あたしだったら、何を標本にするかな。
投稿元:
レビューを見る
ちょっと変質的で圧倒的な独占欲をもって好きな人と関わろうとする不思議な話。
標本にされてまで保管されたいと思うだろうか。