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五木寛之氏が60代半ばの折に記した独自の心身観。
1996年上梓の本書は衝撃的な一文から始まる。
「私は最近、自分に残された時間はそう長くないのではないか、とふっと感じることがある」。ご自身の余命が少ないかのような予感をもらしているのである。
ところが執筆から約26年後の2022年11月現在、五木氏の様子はというと、齢90歳にして健在、しかもなお日刊ゲンダイに毎日更新(!)の連載をかかえているなど非常にアクティブにご活躍だ。そんな氏の心身観がつまったエッセイ集。
五木氏は幼い頃から病弱で、常に「死」を近くに意識していたという。
偏頭痛や腰痛など四百四病を抱えつつ、多くの執筆締切を守るべく不摂生な生活を長年にわたり続けてきたという氏が、どうやって自身の身体と折り合いをつけてきたのか。
「生きながらえたのは99%の幸運と1%の心身観によるもの」「科学的根拠も、医学的正当性もんあい」「自分の体験と、独断的な直観」
としてあくまで氏の主観に基づく雑談としているが、共感できるところも多々ある。
・病気はかかるものではなく内在するもの。それを「出さないように」工夫する。
・病気を治すのではなく「折り合いをつける」
・「いい加減」に生きる(中庸)
・身体の声に耳を澄ませ
・あらゆる人は生誕以来「死という病」をかかえている
・動作をする前に言葉にして身体に伝え心身の回路をリンクさせる(腰痛や誤嚥防止)
・喜怒哀楽の感情を味わうこと(「悲しみ」を含む)が心身の健康につながる
・「あきらめる」=あきらかに究める
・仏教「四苦:生老病死」元のサンスクリット語に「苦」の意はなく「思うにまかせぬこと」が本来の意らしい。
・清潔すぎるのもどうか(五木氏は年に4回しか洗髪しないそう!)
・白黒思考はよくない
・足の裏、指、皮膚、目、歯などが大事なのでは
・極地で最後までがんばれるのは「礼儀正しい人」by C. W. ニコル
・収容所生還者:ユーモアや、美や音楽を愛でる感受性が生命力につながったのでは
あとがきにて「この本は非常識な本である」とあるが、
二十数年を経て、上記のいくつかは今やホリスティックヘルスでよく聞く内容だったりするので、時代が氏の考えに追いついたとも言える。