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紙の本
患者の個性にふさわしい死に至るまでの医療を選ぶ。抵抗ばかりしていた母の死を尊厳あるものにして送った娘の手記。俳優ジェラール・フィリップの未亡人。
2001/06/10 22:22
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:中村びわ(JPIC読書アドバイザー) - この投稿者のレビュー一覧を見る
著者アンヌ・フイリップの名は本書で初めて知った。
中国のフランス大使館に勤めていた夫とともに旅した経験をまとめた『シルクロード・キャラバン』、再婚して8年後に36歳の若さで亡くなった俳優ジェラール・フィリップとの生活や死について書いた『ためいきのとき』、それ以後発表した小説など作品はいろいろあるということだ。
計算によれば42歳で夫を見送った彼女が、たぶん66歳ぐらいで母を見送った。どちらも「最愛の」と付けていいとは思うが、母娘の関係は必ずしも暖かなものばかりではなかったようだ。
若い娘時代にはかなりの反抗があった様子、母が自分の家で死ぬことを決める前には、著者のパリのアパルトマンを嫌い更に老人ホームを嫌ったという経緯があり、自宅での付添いの家政婦も嫌ったということが包み隠さず書かれている。
不自由な身体ゆえ、食べ物を腐らせつづけ、ボロボロになった寝衣を着つづけながらも、ひとりで暮らすことの満足を欲した母親のプライドに対する煙たさと敬愛の念がごちゃ混ぜになった複雑な著者の心情。それがひしひしと伝わってくる。
孤独はさげすまれるものではなく、選びとってのち満たされるものもあるのだということに気づかされる。誇りある自立心が、いかにもフランス人気質だなと、フランスの女性らしいものだなと思わされる。
フランス人の友だちがいるわけでも、親しく話したことがあるわけでもないけれど、映画や小説で知ったイメージ上のフランス女性のかっこよさが私には認められた。
90歳という晩年の母親の生活ぶり、寝たきりになったベッドの上での様子が淡々と描かれていく。死に行く日と荼毘にふされた日のことまでも淡々と…。
その中でも印象的なのは、著者が母に何度も語りかける「母さんは、自分の家の、自分の部屋の、自分のベッドに寝ているのよ」という言葉。
そして、危篤を迎えんとする前に、医師が著者に相談する三つの方法。回復する見込みはなくても入院の上延命措置をとるか、のどの渇きや体の壊疽の苦しみは増していくがこのままにしておくか、辛い死を避けるために深く眠らせる措置をとるか。
三つめの措置を選んだ著者に、医師はさらに問う。著者が自分で注射を打つか…と。それに対し、彼女は看護婦の派遣を乞う。
日本では、病院が医療点数を稼いで売上を上げるのに最も効率の良い「フルコース」というのがあるのだと聞いたことがある。それを見直して、患者の立場に立った尊厳ある死の形を求める模索が医療現場ではされるようになってきているようではある。だが、厳しい病院経営を考えれば、患者の気持ち以上に優先されるべきものがまだまだ多いのが現状のようである。
それは、患者の家族にとっても時には面倒いらずで助かる。他に選択肢のない唯一の示された道のようにも見える。
多様性や選択のある死を迎える道は、ゆっくりと切り拓かれているところだ。しかし、その道が拓かれると同時に、拓かれなくてはならないものがある。「美しい」老いと死を迎えるために必要なことは何か。そんなことを考えさせてくれる本である。
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