紙の本
1998年度のベストミステリーだったはず。ちょっと時代がかってはいますが、でも70年以上も前の作品とは思えないスマートさ。名作とはこういうモンなんですね
2006/09/15 21:01
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投稿者:みーちゃん - この投稿者のレビュー一覧を見る
《雪が降りしきる年の瀬、沼沢地方の村フェンチャーチで、車を溝に落としてしまったピーター卿は、教会で15840転座の八鐘を鳴らす羽目に。それは九時間も続く音の饗宴だった》推理小説。
あまりミステリ・ランキングなどを気にするほうではないほうですが、書店で見かけて気にしながら手にしていなかった作品や、見かけもしなかった小説が年末の投票なんかで上位にランクされると、悔しくてやっぱり張り読みたくなります。で、ありがたいことに、ベスト3にランクされたようなものであれば、読んで損をしたということが殆どありません。
じつはフロスト・シリーズもランキングを見て読み始めて惚れこんだ作家で、二匹目の泥鰌をセイヤーズで狙ってみました。ただし、セイヤーズは初期の短編は読んだことはあるのですが、それ以来、殆ど読んでいなかった作家です。そんな作家に再会できる、こうしてみるとランキングも捨てたものではありません。
教会の由来を語らせたら、客の都合などはそっちのけの教区長シオドア・ヴェナブルズ。でも妻のアグネスにしてみれば、そんな夫の態度が心配でなりません。雪の村はずれで、車を脱輪させてしまったピーター卿が、一夜の宿を求めたのが、そんな二人が住む教会でした。そこには、新しい年を15840転座の八鐘を鳴らして迎えようとする村人が集まっていました。奏者に欠員が出て困惑している彼らに、ピーター卿は代役を買って出ます。
雪の村に鳴り響く9時間にも及ぶ鐘の音。行事も無事に済んで、ほっと一息ついている卿が聞いたのは、以前、ソープ家で起きた宝石盗難事件のことでした。事件のあと、両親を相次いでなくした少女ヒラリー・ソープに村人の同情は集まります。そのヒラリーの埋葬して間もない母の墓所から転がり出たのは、顔をつぶされ手首から先がない男の遺体でした。
消えたエメラルドの謎。ロンドンから来た有名な宝石泥棒のクラントン、手引きした赤屋敷の執事ディーコン。フランスに現れた脱走兵。ピーター卿がすれ違った自動車の修理工。受け取り手のない手紙。
不朽の名作と言われる一冊だそうでうが、私はまったく知りませんでした。1934年出版といいますから、70年以上もまえの作品、でも少しも時代を感じさせません。巽昌章の親切な解説で、セイヤーズとクリスティー、クィーンなどとの推理小説へ考え方の違いが、よく分ります。京極夏彦への言及に思わず肯きます。
叙述トリックの持つ魅力にあふれ、トリックに対する考え方が変わる一冊といえるでしょう。キリコ風の西村敦子のイラストもいいのですが、添付される村の地図や教会の図面が、いかにも黄金期のミステリを思わせます。
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誰がために鐘はなる
2001/05/29 01:00
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投稿者:みと - この投稿者のレビュー一覧を見る
冬の悪天候の中、イギリスの片田舎で車を事故らせたピーター卿は、なりゆきによりその村の教会のクリスマスミサで鐘をつくことになる。その後、村の素封家の葬儀で墓から見知らぬ男の死体が出て来たことから、ピーター卿は「貴族探偵」として協力を要請される
原題“Nine Tailors”とは「九告鐘」と訳され、成年男子が死亡した場合に鳴らされる弔鐘のことを指している。作品の節目で非常に効果的に使われている「教会の鐘」であるが、その名付け方や作られ方など、ヨーロッパ(キリスト教圏)においてどれだけ「鐘」が身近で、暗示的なものかが良く分かる作品でもあろう
一見繋がりのない事件が一つにまとまってゆく様は、さすが著者の代表作といわれるだけはある作品。教会の鐘が鳴り響く時、それが誰のため、何のために鳴らされるのか…。細やかに書かれた人物描写は、この作品を単なる推理小説に終わらせていない。
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死を告げる九告鐘の秘密
2015/08/20 12:21
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投稿者:papanpa - この投稿者のレビュー一覧を見る
ナイン・テイラーズとは死者を弔う教会の九告鐘のこと。
鐘の音が美しい田舎の教会の墓地で、顔をつぶされた身元不明の男の死体が掘りだされます。この男の正体は?村で起こったエメラルド盗難事件と関係があるのか?
たまたま村を訪れていた貴族探偵ピーター卿が事件に挑みます。
個人的感想
洋物独特の読みにくさがあり、洋物慣れしていない私には厳しかったです。
途中で誰がだれか良くわからなくなり、何が起こって、どう解決されたか良く理解できないまま読了。
最後の最後に、男の死因だけは理解できたのですが・・・、なぜそうなった??
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冗長度が高そうでいて実はすごい緊密なのよね、セイヤーズって。ぼーっと読んでたら面白さを見失う。それにしても鳴鐘術用語の訳出、浅羽莢子さすが。
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九作目にして最高傑作といわれている物。あ、ここまでの創元社推理文庫の翻訳は浅羽莢子さんです。私は好きだなー。車の故障で立ち寄った村で、ピーターは年越しの鐘突きに誘われる(イギリスの鳴鐘術についてはややこしいので除きますがただ突けばいいモノではナイとだけ言っておきましょう。しかしホンマに何でもできますなアンタは)もちろんイベント好きのピーターが加わらない訳がナイ。そんなこんなでこの村との繋がりができたピーター卿の元に、最近埋められた墓の中から出てきた変死体の事件が持ち込まれる・・・ピーター卿はどこへ行ってもユーモアたっぷり余裕綽々。うふ。鳴鐘術にも詳しくなれる!!(うーむ。)
ただしラストの方は・・・いやぁ、好きですけど。名作ですよな。でも明るい話ではないよ。・・・なんかさー、封神演義の読後感思い出しちゃった(言い過ぎ)最後の方の思い悩むピーター卿とか。トリックを確かめに行って臨死体験(笑)一歩手前まで行くピーター卿とか。
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人一人の装束を整えるには九人の仕立屋を必要とする。
全てを示すは、九告鐘。
九告鐘は、死者を葬送する教会の響き。
九告鐘は、人一人。
というわけで、1930年代最高のミステリー小説の一つとされる、ドロシー・L・セイヤーズの『ナイン・テイラーズ』です。
冬将軍の去った、沼沢地方の領主が亡くなり、彼の者の亡骸を埋葬すべく、領主一家の墓を掘ったところ、身元不明の遺体が発見される。
一体誰の遺体なのか?
何故、領主一家の墓に埋葬されていたのか?
教会を守る老牧師は、去る年の瀬、偶然交流をもったピーター・ウィムジイ郷を招請する。
と書くと、ここから物語が始りそうですし、実際物語の本筋が始るのはこのシークエンスなのですが、実はここにいたるまで88頁にもわたって、老牧師=ヴェナブルズの元にピーター卿が偶然訪れ、転座鳴鐘に狩り出される件が書かれています。
この導入部、転座鳴鐘術、すなわち教会の鐘の鳴らし方の蘊蓄に満ちていてなかなかマニアックな印象を与えるのですが、これが意外と面白いです。なにより、この導入部ではキャラクターの紹介と、そして落ちに繋がっているのですから、本筋に入らない、といって飛ばすことはできないですね^^;
そして、本筋の方ですが、これがなかなか面白いです。なんとも言い難いオチといい、名作と言われるだけの事はありますね。
このようにプロット自体は大変面白いのですが、何しろ少々読みにくいというか、独特というか、そんな文章の作り方をしているので読みきるのに時間がかかってしまいました。
秋の夜長にオススメする逸品です^^
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ピーター卿シリーズ
大晦日の晩ピーター卿が車の立ち往生で止まった村の教会での鐘術会。病気のウィリアム・ソーディの代わりに参加するピーター。その晩死んだレディー・ソープ。翌日村を離れるピーターが出会った男。半年たち病死したソープ卿埋葬の日。妻であるレディー・ソープと共に埋葬しようとするが・・・。墓から現れた顔のつぶされた謎の男の遺体。15年前のソープ家の客人の宝石盗難事件。犯人のディーコンの話。ディーコンの元妻でソーディと結婚したメアリー。死んだ男と宝石盗難事件との関連。
2007年4月7日購入
2011年8月29日読了
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セイヤーズのピーター・ウィムジィ卿シリーズ第9弾。
1930年代の英国探偵小説でも白眉、普及の名作といわれている。
その名にふさわしい、重厚で、歴史と風土の深みの不可思議さを感じさせる独特な雰囲気を持ち、読み応えも、面白さも充分。
伝統ある英国の鳴鐘術を交え、寒村で見つかった謎の死体と過去に起きた犯罪をめぐる謎解きに、縁あって土地を訪れたピーター卿がたずさわることになるが…。
緻密なプロットに、特異なムードを漂わせながらも、ピーター卿と人々のやりとりの軽妙さとユーモアが楽しめる。また、幻想と怪奇、畏怖さえ感じさせる鐘の存在が、物語の余韻と共に響いている、奇妙な味わいがあります。
さすがは、ドロシー・L・セイヤーズというしかない…ですね。
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クリスティと並んで英ミステリの女王と言っても過言ではない、セイヤーズの代表作。
個人的にピーター卿は探偵役の中でもかなり好きなキャラクタ。貴族と執事…
古き良きイギリス、その雰囲気を味わうための作品。
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再読。鐘のこととか暗号解読とかは読み飛ばしてしまった。やはり難しい。だが風景や人物の描写が興味深く、事件を追う過程におきる様々な物語を楽しんだ。 あとがきに「卿とバンターやパーカーとの掛け合いは、それぞれの場面での才ばしった楽しさを演出することに重点が置かれているよう」とあり、そこが楽しみなのよね、と思った。
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セイヤーズの中でも名作、といわれていたので期待しすぎたか?
個人的な好みとしては、この作品より「死体をどうぞ」の方が面白かった・・・。
それはさておき、イギリスの田舎の農村の雰囲気、転座鳴鐘術に関するペダントリー、ちょっぴり恐怖小説的な展開など、楽しめた。
・・・たぶん、登場人物が多すぎたので私の頭がついていかなかったのも問題なんだろうな。
でも暗号の解明部分や最後の解決編への展開など練りこまれていて、さすがセイヤーズ、と思いました。
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タイトルは「九告鐘」で成人男性が亡くなった際に教会で鳴らされる弔鐘を指している。全編を通して教会の鐘は大きなテーマとなっているが、古き良きイギリスの風景を感じさせる。この作品はセイヤーズの代表作と言われており、凝った筋立てで、また情景描写が多く、非常に重厚な印象を与えている。
ピーター卿は旅先で立ちよったフィンチャーチで、ひょんなことから教会の鐘をつくことになる。その後、ある墓から顔をつぶされ両手首を切断された男の死体が発見されたことからピーター卿の探偵活動が始まる。
謎ときは、怪しいことがたくさんあり、単純な謎が偶然の積み重ねで複雑な謎になっているところはセイヤーズお得意の手法。
個人的には正直言って、死因にはちょっとすかされた感じ。いや、納得できないわけではないんですけどね。それにもちろん面白かったですよ。全体的には。 (2002-02-16)
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年の瀬の大晦日、貴族探偵のピーター・ウィムジィ卿と執事バンターはイングランド東部の雪深い田舎村で車両トラブルに見舞われるが、親切な教区長に助けられ一晩過ごすことに。教会ではこの夜、9時間継続して鐘を鳴らす一大偉業を成し遂げようとしていたが、鐘方に欠員ができピーター卿が代わりを勤めることになった。数カ月後、村の墓地から身元不明の遺体が見つかり異様な事態に困惑しているという教区長からの手紙を受け取り、ピーター卿は再び小村へ向かうのだが…。話の冒頭から続く教会独特の鳴鐘術の蘊蓄が難しくも興味深い。海外の教会の鐘の音色は「ガラーンゴローン」というイメージで、鳴らし方にこれほど複雑な技術(奏法)があるとは全く思い至らなかった。鳴鐘術とは一言でいえば「教会の鐘を鳴らす技術(奏法)」のことなのだが、ケント高音跳ね八鐘短打曲とか古式七鐘総鳴曲とか追い上げ追い下げ、後手を転ずるなどなど…難解な鳴鐘術専門用語が多く、全く馴染みがなくて分かりにくい。作中でも「イングランド固有の転座鳴鐘(家)とは徹底した計算と器械的に完璧な動きに満足を見出すもので、外部(欧州大陸)の者には不可解の一語につきる」と述べられている。おそらく日本人でこの部分を理解しきれる人はほとんどいないのではないだろうか。だが八つの鐘にそれぞれ名前や個性、来歴や言い伝えがあったり(鐘は女性として扱われる)奏法の難しさがあったりとなかなか面白い。この鐘が事件を解くなんらかの鍵になるだろうと思うと、このまま先を読み続けて理解できるのか不安感を抱えるのも事実だが、そこで挫折せずに読み続けると次々判明する事実や推測を頼りに物語が展開していく面白さに出会うことができる。この作品に見る限り、ピーター卿は圧倒的閃きや頭脳戦で謎を解くタイプではなく、貴族(次男坊)という経済的余裕や身軽さ、行動力で事件を追うタイプの探偵に思える。【以下ネタバレ含むため未読の方はご注意】さてそれでは肝心の事件の方は、というと割とシンプル。村の墓地に埋められていた身元不明(村人ではない)の男性の遺体には外傷なく死因不明。両手足に縛られた跡があり、両手切断、顔面殴打は死後に行われたようだと言う。平穏な村にこんな事件が起きるなんて降ってわいた災害のようだ。教会で見つかった謎の暗号文の解読方は凝っていて(やっぱり!というか)鳴鐘術が鍵となっていたのだが、自分には理解しがたいもので「ふぅ〜ん」という程度にしか思えず暗号解読のスッキリ感が味わえず残念。村を訪れたよそ者の怪しい動向、昔起きたエメラレルド首飾り盗難事件(未解決)などと繋がり、追跡は遠くフランスまでおよぶ。終盤は謎をを追えば追う程思いがけず哀しい事実が掘り起こされる展開に。村を訪れたよそ者、フランスで家庭を持った英国男性、過去の宝石盗難事件の容疑者達とその関係者らの名前や関係性が、服役、身元詐称などのために複雑に思えて若干引っかかりを感じたが、自分の理解力不足のせいだろう。誰が悪漢ディーコンを鐘部屋に縛り付けたのか、誰が死体を始末したのかは、ある人物らの自供(このやり方は探偵小説としてはあまりスマートではないが)により判明したが、では「誰がどうや���て彼を殺したのか」という肝心な部分は結末まで謎なまま。一時は部屋に転がっていた空き壜から無理やりビールを飲ませて溺死という疑いが頭を過った(もちろん見当違い)。結局、ピーター卿が鐘部屋で身をもって体験した恐怖の時まで察することができなかった。そして「犯人」に驚愕。これが有名なトリックか。弔いの鐘、九告鐘=「ナイン・テイラーズ」というタイトルも最後まで読むと非常に意味深く感じられた。高校生の頃セイヤーズ作品(どの作品かは不明)で一度挫折した経験から苦手意識を持っていたが、今なら他の作品も楽しめるだろうか。20世紀前半の英国らしい雰囲気満点、読み応えのある名作。※追記最初の読みづらさの一因は前述したとおり鳴鐘術の難解さにあったのだが、もうひとつの要因をすっかり忘れてた。イギリスの田舎訛りを表現したのだろうが、村人のですます調が「ほうでのす(=そうです)」って具合の「でのす」調になっていて、慣れるまで辛かった。でも読後感想を書く頃にはその読みづらさがかえって懐かしく愛敬さえ感じる。「ごちそうさんでのした」(笑)
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ひょっとして衒学ミステリーの走りか。鳴鐘術に馴染みがないため、のめりこめず。ただ伏線は効果的だし、意外なラストも印象的で、良質ミステリーの条件は揃っている。
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江戸川乱歩がこの本を凄いミステリとして国内で紹介したことから、ドロシー・L・セイヤーズの代表作として国内では知られているようだ。
そのためにこの作品からセイヤーズに触れ、そのむずかしさに他の作品を読むことを諦めてしまう人もいるのかもしれない。
鳴鐘術に関する部分の記述は確かに複雑で、実物を見たことのない我々には理解しにくい。しかし同時に無機物の恐ろしさをこれほどまで伝えられるだろうか、という驚きがある。
日本の鐘もどこか恐く思うところがないではないが、ヨーロッパの鐘で、我々としては祝福の鐘のようにしか思えていないものが別の何かに変貌していく様子が本当に素晴らしいと思う。
転座鳴鐘術で、鳴らし方や鐘の様子がわからないから辛かったという人は、以下の動画を見てみることをお勧めする。
http://www.youtube.com/watch?v=DK8uMGT01wA&feature=player_embedded
http://www.youtube.com/watch?v=ynMJGwf149A&feature=player_embedded
最初からピーター卿シリーズを読んである程度慣れている人であれば、この作品の良さを理解しやすいと思う。
自分個人としては、シリーズの中で独立しているようでしていない、その微妙さも好きだ。