紙の本
中世・剣
2002/07/13 19:23
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:MMM - この投稿者のレビュー一覧を見る
格調高い文章で綴られた中世。本作は二十五歳で夭折した足利義尚の死を悼む父義政の嘆きを描いている。著者が出征前に書いたせいかその当時の著書の心境も考え併せて読むとより深く理解出来る。また、この作品を川端康成が認めたというのも有名である。
剣は剣道部員の団長を主人公に部下の過失を自らの死をもってつぐなうという好短編である。著書の集団における人間の行動の美学を見たような気がした。どこか著書の最後を暗示しているようで不気味でもあった。
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何ともすっきりしない読後感の短編が6編。
すっきりしないが文章は美しい。
そして彼が描く「年上の男性に憧れる少年」はみんな何とも言えず可愛らしいのだ。流石。
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「中世」
応仁の乱は終わったものの
将軍足利義尚は若くして死んだ
悲しみにくれる父の義政が鬱々とした毎日を送り
義尚の霊を呼び出そうとする一方
老医師は義政のために不老薬を手に入れようと奔走するのだった
三島作品のなかでも最初期のものにあたる
言ってみれば年寄りの回春話で
いかにも初期の三島らしいものだが
なんでも出征前の遺書代わりに書いたというふれこみだ
たぶん義政に天皇を
老医師には自分の理想を重ねているんだろう
敗色濃厚な空気が、内容に強く反映されており
その扱い方で、「明るさは滅びの姿であろうか」の太宰治と
ウマが合わないのも納得できる
ただし、出征直前の検査で三島は落とされた
「夜の支度」
学徒動員の入隊検査にハネられた青年が
その鬱屈と性欲を持て余しつつ、彼女の疎開先を訪れる
彼女は、青年との一夜を持つために
嘘をついて母親を旅行に出したのだが
それを彼女ひとりがやり遂げたという事実によって
なぜか青年の自尊心は傷つけられるのだった
「家族合わせ」
「仮面の告白」および「金閣寺」の原型と思われる作品だが
同性愛はあまり強調されておらず
むしろここでは、死んだ妹への屈折した愛情が告白されている
戦争中に両親をうしなった兄妹の話
娼婦になってしまった妹は、家に男を連れ込んで兄を苦しめるのだった
三島の中で「大人になること」と「死を受け入れること」が
強く結びついているとわかる
「宝石売買」
ダイヤモンドはただの石、という認識にもとづくならば
その価値を決めるのはしょせん人間の気分であるが
ここに登場する貴族の娘は
姉から受け継がれた宝石の価値を
己の意志によって裏付けするのだった
しかしその意志は
堕落を求める心から逆説として導き出されたものであるらしいことに
彼女はまだ気づいていなかった
「孝経」
ひそかに堕落を求める心がロマンチシズムを生み
隠し持ったロマンチシズムが羞恥心を生む
羞恥心は逆説的にロマンチシズムへの逃避を肯定するだろう
しかし、逃避行のうちに堕落した自分自身の影が見いだされたとき
羞恥を深める人々は
さらに隔絶した欺瞞の物語世界へ逃避を図るのだった
「剣」
大学の剣道部主将が
合宿先で規律を破った部員たちに
誇りを傷つけられ
腹を切って死んでしまう話
純粋な少年のファシズムというべきか
しかしそれは、真の意味でアンチ・オイディプスなのかもしれない
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#英語 "The Middle Ages" by Yukio Mishima
短編5作品
中世 The Middle Ages
夜の仕度 Preparations for the Evening
家族合せ Family Card Game
宝石売買 Precious Stone Broker
孝経(こうきょう) The Book of Filial Piety
剣(けん) Sword
「いつ来るかわからぬ赤紙にそなえて、遺書のつもりで書いた作品」が「中世」
川端康成が三島の才能を認めるきかっけとなった作品が「中世」と「煙草」
「家族合せ」
主人公の名前は、主税(ちから)
忠臣蔵の大石主税(ちから)と同じ名前。
どんな意図が?つい、深読みしたくなります。
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川端のノーベル賞受賞後、三島と伊藤整の三者対談にて。三島は川端に、足利義尚(よしひさ)のはなしを書いてほしいと言っている。義尚については三島自身が「中世」ですでに書いているが、川端の書く義尚が読みたかったのだろうか。