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紙の本
フォーサイス最後の作品、さすがに絶品
2002/07/15 08:31
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ドン・キホーテ - この投稿者のレビュー一覧を見る
さすがにフォーサイスだけのことはあった。実に読み応えのあるスパイ小説であった。小説の構成がやや複雑でうっかりすると時間軸に間違えを生じやすい。
前半は2つのストーリーが小出しに交互並行して描かれている。3つ、4つが並行しているものもあるので、それに比較すれば混乱の度合いは少ないわけであるが、どちらも同じ時代の出来事のように書いているところで錯覚を生じやすいのだろう。
一つはCIAのスパイ、ジェイスン・モンクが駆け出しから一人前、否、一匹狼の卓越したスパイとして成長を遂げていく過程である。モンクは語学の才能に恵まれ、スパイになるために生まれてきたように描かれている。もう一つは、むしろこちらが本題ではあるが、ソ連の政治体制がゴルバチョフの共産党政権を最期に大きく崩壊し、その後の混乱、エリツィン後のチェルカソフ大統領(架空)の死去に乗じて愛国勢力同盟委員長のコマロフが民衆の圧倒的な支持を受け、来る大統領選挙に当選間違いなしという情勢になるまでの過程である。
モンクが一人前になる過程では、CIAの腐敗で局内にスパイが暗躍し、このスパイのためにソ連に潜んでいた味方の有能なスパイが軒並み逮捕されるという悲劇が中心に描かれている。逮捕とはすなわち冷酷な処刑を意味する。モンクが接触してスパイ活動を行わせたソ連の高官もこの悲劇に巻き込まれてしまった。それにもかかわらず、CIAは内部調査をいい加減に済ませて、スパイの存在すら認めようとしない。ついにモンクは人事責任者を殴打してCIAを追放されてしまう。
後半で2つのストーリーがどうつながるのだろうか。後者のストーリーでは、このコマロフがとんでもない危険な思想の持ち主であることが偶然から英国の情報機関に伝わってしまう。コマロフが書き記した極秘文書がひょんなことから紛失してしまうのである。これには政権の座に就いた暁の政策が細かく書かれていたのであった。その内容たるや少数民族やユダヤ人を根絶やしにして所謂民族の浄化を行うことが明記されていた。
これが英国情報機関SISの手に渡り、その真偽のほどが吟味されたが、本物であることが確認された。しかし、政府当局はあえて何も動きを見せない。ここまでは一応実在の組織や国家が登場してきたのだが、これからは政府などの公的機関が動かない結果、出てきた小説上の秘密組織の登場となる。
民間企業の富豪、西側政府大物OBの集まりである。このロシアの大統領候補として好ましからざるコマロフ潰しに資金は集まったが、実行する人物がいない。SIS元長官、ナイジェル・アーヴィン卿はフロリダで暮らしていたモンクに白羽の矢を立てて、説得に成功する。
モンクは10年ぶりにロシアの大地に戻り、工作活動を行うことになった。モンクとアーヴィン卿自身の入念な工作で、コマロフの支持率は急落し、追い詰められたコマロフは遂にクーデータを起こして自滅するという実に波乱に富んだ展開で締めくくられる。ロシアのイコン、すなわち統合の象徴は如何に。
この作品はフォーサイスの最後の作品だそうで、最後らしくフォーサイスの持ち味が十分楽しめるスパイ物の逸品である。これで絶筆とは如何にも残念である。米ソ、米ロのスパイ合戦はこれにて終了かもしれない。
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