紙の本
再びサンタ登場
2001/02/02 02:38
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投稿者:松内ききょう - この投稿者のレビュー一覧を見る
林氏のサンタシリーズを追いかけている私にとって、二作目を読めた嬉しさがよみがえる、ご存じ本格推理の新鋭作家達を取り上げる13作目。林氏の「プロ達の夜会」は前作の爽快なテンポそのままに、相変わらずの突拍子もない人を食った出だしが、本当に憎らしい。いえ、憎めない。それにしても、「水野先生の300年密室」「藤田先生のミステリアスな一年」でおなじみの村瀬継弥氏の「暖かな密室」が掲載されているんですからね。この企画、改めて素晴らしいですよね。
書評への感想頂けると嬉しいです。ききょう
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イメージ参照(http://blogs.dion.ne.jp/kentuku902/archives/2071528.html)
(収録作品)死霊の手招き(飛鳥悟)/遺書(鮎川哲也)/海彦山彦(鮎川哲也)/殺し屋の悲劇(鮎川哲也)/ガーゼのハンカチ(鮎川哲也)/酒場にて(鮎川哲也)/「青い部屋」に消える(岡村流生)/紫陽花物語(砂能七行)/遺体崩壊(城之内名津夫)/黄昏の落とし物(涼本壇児朗)/信じる者は救われる(谷口綾)/猫の手就職事件(南雲悠)/クリスマスの密室(葉月馨)/プロ達の夜会(林泰広)/暖かな病室(村瀬継弥)/水の記憶(八木健威)/ある山荘の殺人(湯川聖司)
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ミステリのアンソロジーとしては記念すべき13巻目ということで末尾には鮎川氏の未収録ショートショートミステリが5編収められている。殺し屋の依頼料が20万円だの、制服を着ていた大学生だのといった時代錯誤の表現があるのは否めないし、ショートコントのような結末もあえて収録しない方がよかったのではと思われたが、まあ、おまけ(マニアにとって見ればお宝だろうけど)ということで。
今回は特にラストの村瀬氏による「暖かな密室」が何といっても群を抜いていた。末期の癌で余命いくばくも無い妻のために昔彼女に学資の支援をした足長おじさん「Aさん」を夫が探し回るという設定で、日常の謎系でしかも導入部から結構泣かせる。結末は宮部みゆきの「サボテンの花」を髣髴させる人間味溢れるもので私が常々求めるトリックやロジックのみならずドラマ性のあるミステリの条件を完璧に満たしていた。
途中の宮崎先生の妻が小遣いを2,500円上げてほしいといっていたというエピソードで学資を複数の人物で分割したというのはおぼろげに見えていたのに一人当たりの額の少なさにその考えを排除したのが悔やまれる。
あと小説として読ませてくれたのは「黄昏の落とし物」と「紫陽花物語」ぐらいか。
前者は冒頭の社長が真夜中に川に何かが飛び込む音を聞いた話からてっきり出演者はこの社長だろうと思っていたのに、雑居ビルの管理人を中心に話が展開する辺りの演出も心憎い。冒頭のエピソードが最後の最後に結実するのも上手いし、主人公である刑事の無邪気に語る恐ろしい真相も良い。
後者はまず冒頭の和服の女性が乳母車に一輪の紫陽花を添えるという情景が非常に絵的でここでまず引き込まれた。アジサイ団地と呼ばれるその周辺で起きた神隠しの話だが、これを上手くスパイスにして怪奇譚を拵えている。ロジックの愉しみに浸れる好編だ。
純粋にミステリとして感心したのは「プロ達の夜会」。楽屋に人を入れてはいけない女優の謎を改行の多い文章でテンポよく読ませる。最初はこれがティーンズノベルのような軽薄さを感じさせられたが、結末を知るに至り、最後の仕掛けで納得。この鮮やかさゆえにシナリオのように読ませる効果を狙ったと穿った考えを持つに至った。
真相が解ったものの「遺体崩壊」はテンポのいい文章で途中不適切な表現があるが、小気味よかった。唐笠連番状で『オリエンタル急行の殺人』だと気づいてしまった。
その他は水準以下のように感じる。
それぞれ気づいた瑕疵を述べていくと、「死霊の手招き」は真相は見事だが、犯人だという証拠が無いのに勝手に犯人は自供するのが×。
「猫の手就職事件」は文字・内容ともに詰め込みすぎ。作者自身は正に科学的・心理的・物理的の多方面からロジックを畳み掛ける手並みに酔いしれているのだろうが作者の独り舞台に付き合わされたような徒労感だけが残った。
「水の記憶」は島田荘司氏の影響をもろに受けている。やたらに独り言の多い一人称は鼻につくだけ。結末は読ませるが総合的に私に向かなかった。
「クリスマスの密室」は「水の記憶」もそうだったが素人作家のシリーズ探偵に付き合���されているのが嫌。プロになってからやってほしい。押し付け気味のハート・ウォーム・ストーリーも気になる。
「ある山荘の殺人」も二人称叙述は臨場感出すために採用しているだろうが技量が伴っていなかった。
玉石混交という言葉があるが、今回も総括するとその一言に落ち着いてしまうようだ。選者の選択眼の眼力に衰えを感じてしまった。残念。