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紙の本
呪われた女
2006/08/24 15:24
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:松井高志 - この投稿者のレビュー一覧を見る
イギリスの女流作家・ミュリエル・スパークの中編小説。1990年に原著が出版されており、この邦訳は98年初版である。
実は、スパーク(別の短編集の訳者によると美人なのだそうだ)の作品は短編しか今まで読んだことがなかった(岩波文庫の「20世紀イギリス短編選・下」所収の「豪華な置時計」は、ほどよく現実から逸脱していて面白いと思う)。瑣末なことがらを手堅く綴って無難な筋にまとめるような人でないことは分かっているが、時間進行がとっちらかっていたり、妄想と現実がごっちゃになっている「ゲンダイブンガク」だったら今の自分には荷が勝ち過ぎていて嫌だなぁ、と、買ってはみたものの長くツンドク状態だった本なのである。
長らく放っておくのも可哀想なので読み始めてみたわけだが、この話は筋だけいえばサスペンス劇場である。「シンポジウム」とは「饗宴」のことであり、このタイトルにはさまざまな象徴の働きが感じられるが、それを詮索するのはさておいてとりあえずプロットを追えば、お話は富裕な人々の集まるパーティから始まる。この「シンポジウム」のメンバーは、全員知的で恵まれた階層の人々であるが、皆程度と質の差こそあれ、どこか変である。奇形的といってもいいだろう。作者はとりあえずパーティを描写するところからスタートして、「キャラを立て」、後は成り行き任せに書いているようにさえ見える(きっちり作ってなくて、いかにも行き当たりバッタリなのが90年代的という感じで嬉しい)。 メンバーの一人の若い女が、幼い頃から行く先々で周囲の人々に「死を招く」呪われた女性であるという設定に至って、どんどんサスペンス劇場の雰囲気が強くなり、財産目当ての結婚と資産家の姑殺しの妄想が展開され、それが実現してしまうと本当にサスペンス劇場(あるいはロアルド・ダール風娯楽小説)になってしまうので、妄想止まりで終わる。だが実際に妄想を出し抜く形で殺人は起こる。ロマンスを打ち砕く非情を描いた小説であるといえる。この幻滅の仕組みも、実ははなはだイギリスらしい伝統といえるのであるが、72歳にしてこの非情をさらりと描ける作者も凄い、と思う。
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