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矢吹駆シリーズ
1945年コフカ収容所。所長フーテンベルグの奴隷となっている女性ハンナ・グーテンベルガー。収容所の撤収命令を伝えに来たハインリッヒ・ヴェルナー少佐。小屋の中のハンナの殺害。雪の密室。コフカ収容所の集団脱走事件。殺害されたウクライナ兵とドイツ兵。爆発と機関銃掃射。
コフカを訪れたヴェルナー少佐の副官パウル・シュミットの捜査。カケルの助言でダッソー邸の裏の廃屋で発見されたイザベル・ロルカンの遺体。イザベルの遺体のそばに落ちていた顔の切り抜かれた写真。フ-テンベルグとうつった謎の人物の正体。事件と20世紀最大の哲学者ハルバッハの関係。ダッソー邸でのハルバッハの墜落死。使用人グレの逃亡。
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相変わらず哲学論議も、長大ではあるが、従前の作よりも事件と密接していて分かりやすい気が。次々と仮説を覆す密室殺人も十分おもしろい。ただ最終回答が納得のいくものかどうかは疑問だ。
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哲学って言われてもニーチェ?とか?程度の人にとって、いったい普段の会話にここまでぶっこんだ内容が出てくるって信じられない・・でも哲学科の人間とかはこんなものなんか。恐るべし。
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はじめの方は、テーマが「死」なだけあってかなり抽象的な話が続き、途中でわかるんだかわからないんだかはっきりしなくなってきた。
中盤は、とにかく犯人が気になってぐいぐい読めた。私の予想では犯人はグレ。その正体はヴェルナーではないだろうか、なんて思いながら。
しかしナディアは何回真相にたどり着けば気がすむのか。そのしつこさや頑張りには感心させられる。
追記:犯人=グレ=ヴェルナー説は当たってしまった。少々残念。あと、遺体発見時に医者がナイフを刺した、というのも予想通りだった。刀身にハンカチを巻いたもので、老人に人を刺すことができるのかどうかは疑問だが。
それからシュミットは、最後の推理を披露する場面で、どの程度内容を理解していたのだろうか。フランス語はできない、ということだったが。
ところで、作者の笠井潔はどちらかと言えばよくある探偵小説のトリック(紐やワイヤーを使ったトリック、顔を判別不能にした死体入れ替えトリック等)には否定的なようなので、笠井潔を読むときはそのようなトリックは使われていないという前提で読んでいたが、ハンナ殺しでは髪の毛をトリックに使用しているし、ヴェルナーは死んだと見せかけるために顔が判別できないダミー死体を作ったらしい。これには少しガッカリというか、腑に落ちない思いがした。
追記2:苦戦するかと思われたが、反復する表記(外れの推理がいくつも登場するので、あまりにも多い)はさらっと読み飛ばし、一日で一気に読む。カケルの超人・万能人ぶりが遺憾なく発揮されていた。
思想モデル:マルティン・ハイデガー、エマニュエル・レヴィナス
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今作品は現代で起きた「三重の密室殺人」と戦時中のユダヤ人収容所で起きた「三重の密室殺人」が探偵役矢吹駆に与えられた課題。
三重の密室とは?登場人物の関係性は?が明らかになっていくのは心地いい。この三重の密室という特異な謎を解き明かすのは矢吹駆以外あり得ない。だって矢吹駆が探偵役なのだから。
しかし、ワトソン役のナディア・モガール。奮闘、そして自爆します。読者は分かってるから良いんですけどね。
彼女が披露する謎解きは必ず失敗すると。心優しい読者なら温かく見守れるんでしょう。
僕には少し無理だった。
ナディアは過去シリーズで何度も謎解きに失敗します。彼女がワトソン役である以上、それは必然であり不可避なのだと思います。ただ、彼女、自信に溢れ過ぎてるんです。もう見ているのがツライ。
どっからそんな自信が湧いてくるんだー!ってヒヤヒヤから始まりモヤモヤ、イライラへと変わってしまった。ナディアの推理も全部合わせるとそれなりにページ数があって、徐々に、引っ込んでなさいよ、あなた。って気持ちになってしまった。
あと、今作品は過去作品の結末と犯人の名前が矢吹駆とナディアの会話の中で何度も登場します。
シリーズを途中から読む場合は注意が必要です。
ただ、それだけなら良いんですが、犯人の行動原理や、心理、その根底にある哲学を掘り下げてしまう。
再考察してしまうのです。
僕はこれが少し許せなかった。
当然、あの時はあんな風に考えていたけど、実際はこうだったのかもしれない。なんてあって当然だし、シリーズ作品なら余計にあり得る。
事件や人物が繋がりを持っているからこそ、シリーズ作品の面白さがある。
しかし、既刊の作品の中でまがりなりにも登場人物も、読者も落とし所を見つけて着地して、納得をしたはずなのです。
その読後感を取り出して、弄り回されたように感じました。
物語の中でそれが矢吹駆に与えた影響として大きくなってきたのは理解できるし、無視してはいけない出来事なので、仕方ありません。でも、もう少し上手く扱って欲しかった。
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難しかった。ハルバッハの死の哲学を完全に理解できなかったけど、人間の不安は死の可能性でなく愛する者が失われるかもしれないという可能性に起因しているものだというナディアの結論はとても納得が行った。
そして、フーデンベルグの、死の恐怖は一瞬的なものであり真に恐れるべきなのは死に至るまでの過程であるという考えにも至極納得がいく。
哲学とミステリの融合という唯一無二的な存在感のあるこのシリーズは、ゆっくり読んでいきたいと思う。