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高い評価の役に立ったレビュー
5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
2004/12/07 12:45
忘却は暴力かもしれない
投稿者:level-i - この投稿者のレビュー一覧を見る
映画の『ネバー・エンディング・ストーリー』では「虚無」がゴウゴウと嵐のように何もかもを飲み込んでいった。この作品では、たとえばバラが「狩」られたときには、みんなして、花を川へ流してしまう。本が「狩」られれば、本を火にくべてしまう。目に見える形で、勢いよく失う。その激しさを、私たち見る者(読む者)は、暴力的なものとして受け止める。そうして、失う、忘れるということが、暴力であることに、気がつく。
ページを繰っても繰っても、切ないばかりだった。
こんなものまで、と思うようなものも、島の人たちは忘れ、なくし、ないことにもすぐに慣れていく。作家が本を忘れても、船乗りが船を忘れても、それでもみんな生きていく。生き抜く力の強さと見ることもできるし、自我の脆さと見ることもできる。どちらも真実の一側面ずつでしかなく、ただ私は感覚的に、これはとても悲しいことなんじゃないか、と思った。
自分は何でできているだろう、と考え込む。なくなると残念に思うものはある。いなくなると寂しい人もいる。だけど、自分から無理にもぎとると血が流れて死ぬ、とまで思えるようなものには、心当たりがない。
失っては生きていけないものなんて、本当はないのかもしれないね、と作者は語りかけてくる。そうかもしれません、と私はうなだれて頷く。そういう人はこうですよ、と小川洋子は、物語を残酷に閉じるのだった。
このラストで希望を持てる人がいるとすればそれは、苦労が多くともいろんなものを捨てずに生きてきた人、これをなくしては生きてはいけぬとまで何かを思うことができた人だけだ。小川洋子は峻烈に言う。あとの怠惰なお前たちは、さあ—————。
怖かった。でも、怖い思いをすることが、何かの罪の償いになるような気がした。
低い評価の役に立ったレビュー
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2001/03/06 07:47
いかにも小川洋子的作品
投稿者:ごろんちょ - この投稿者のレビュー一覧を見る
記憶狩りによって消滅が進む島で、小説を書いて暮らしている主人公の<私>は、やがて自分自身をも確実に失っていく……。
良くも悪くも小川洋子的。彼女の作品にどっぷりとはまっている時ならば、あるいは絶賛したかもしれませんが、今となっては少々食傷気味の感が否めません。「現代への消失」だとか「空無への願望」だとか、一応テーマはあるようですが、基本的に彼女の作品というのは、危うさを秘めた極めて繊細な文体にこそ特徴があるように思います。なので、最初の数作品はその心地よい幻想の世界に心を泳がせることができるのですが、数を重ねていくうちに、どうしてもマンネリを感じてしまうのです。もっとも、この作品に限っては、ラストシーンが美しくはあるけれども、あまりに悲しすぎて好きになれないということもありましたが。
紙の本
丁寧に冷徹に
2022/07/15 11:03
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投稿者:kkzz - この投稿者のレビュー一覧を見る
時おり“何か”が消滅する島で、消滅を徹底するために秘密警察が記憶狩りを行っている――そんな設定を聞けばいわゆるディストピアものかと想像していたが、読み進めていくうちにまったくの別物だと思うようになった。ジャンルとしてSFやファンタジーといえるのだろうが、丁寧な心理描写等を考えると幻想文学の方が合いそう。丁寧に冷徹に描写していく美しい文章のおかげで異常な世界を易々と受け入れてしまったが、さすがに身体の消滅が起こると、自分はあくまで「わたし」ではなく「R氏」の側だと気づかされた。怪しい輝きを秘めた名作でした。
紙の本
忘却は暴力かもしれない
2004/12/07 12:45
5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:level-i - この投稿者のレビュー一覧を見る
映画の『ネバー・エンディング・ストーリー』では「虚無」がゴウゴウと嵐のように何もかもを飲み込んでいった。この作品では、たとえばバラが「狩」られたときには、みんなして、花を川へ流してしまう。本が「狩」られれば、本を火にくべてしまう。目に見える形で、勢いよく失う。その激しさを、私たち見る者(読む者)は、暴力的なものとして受け止める。そうして、失う、忘れるということが、暴力であることに、気がつく。
ページを繰っても繰っても、切ないばかりだった。
こんなものまで、と思うようなものも、島の人たちは忘れ、なくし、ないことにもすぐに慣れていく。作家が本を忘れても、船乗りが船を忘れても、それでもみんな生きていく。生き抜く力の強さと見ることもできるし、自我の脆さと見ることもできる。どちらも真実の一側面ずつでしかなく、ただ私は感覚的に、これはとても悲しいことなんじゃないか、と思った。
自分は何でできているだろう、と考え込む。なくなると残念に思うものはある。いなくなると寂しい人もいる。だけど、自分から無理にもぎとると血が流れて死ぬ、とまで思えるようなものには、心当たりがない。
失っては生きていけないものなんて、本当はないのかもしれないね、と作者は語りかけてくる。そうかもしれません、と私はうなだれて頷く。そういう人はこうですよ、と小川洋子は、物語を残酷に閉じるのだった。
このラストで希望を持てる人がいるとすればそれは、苦労が多くともいろんなものを捨てずに生きてきた人、これをなくしては生きてはいけぬとまで何かを思うことができた人だけだ。小川洋子は峻烈に言う。あとの怠惰なお前たちは、さあ—————。
怖かった。でも、怖い思いをすることが、何かの罪の償いになるような気がした。
電子書籍
寂しい
2017/06/11 01:20
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投稿者:プロビデンス - この投稿者のレビュー一覧を見る
歳老いていくと、こんな感じになっていくのかなあと思いながら読んだ。今も私自身記憶がなくなり始めてるので。。ちょっと寂しい物語。
紙の本
消失
2016/09/29 15:01
1人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:もっか - この投稿者のレビュー一覧を見る
ラストシーンの消滅は絶望であると同時に希望を抱かせるものであった。この感覚は村上春樹の「世界の終わりとハードボイルドワンダーランド」で感じたものと似ている。最後の消失は非常に切ないものであったが私たちはたとえ最も大切にしているものを失ったとしてもそれを心に大切に保管し生きていかなければならない。
電子書籍
小川洋子
2019/09/23 18:16
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:まち - この投稿者のレビュー一覧を見る
小川洋子の小説、わたしには物語の世界に入り込めるものと、そうでないものがある。今回の小説は後者だった。
紙の本
いかにも小川洋子的作品
2001/03/06 07:47
5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ごろんちょ - この投稿者のレビュー一覧を見る
記憶狩りによって消滅が進む島で、小説を書いて暮らしている主人公の<私>は、やがて自分自身をも確実に失っていく……。
良くも悪くも小川洋子的。彼女の作品にどっぷりとはまっている時ならば、あるいは絶賛したかもしれませんが、今となっては少々食傷気味の感が否めません。「現代への消失」だとか「空無への願望」だとか、一応テーマはあるようですが、基本的に彼女の作品というのは、危うさを秘めた極めて繊細な文体にこそ特徴があるように思います。なので、最初の数作品はその心地よい幻想の世界に心を泳がせることができるのですが、数を重ねていくうちに、どうしてもマンネリを感じてしまうのです。もっとも、この作品に限っては、ラストシーンが美しくはあるけれども、あまりに悲しすぎて好きになれないということもありましたが。