紙の本
あやめなミステリーはあやめのうちに
2008/03/28 13:01
7人中、7人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:空蝉 - この投稿者のレビュー一覧を見る
アガサクリスティの名著『そして誰もいなくなった』を下敷きに、密室殺人、孤島殺人といったお決まりのパターンにのっとったミステリーかとおもいきや、そうではない。
ごく普通の男女4人ずつ計8人の若者達が無人島でバカンスを過ごす。
緩やかな関係をなんなく保っていたはずの8人、不満も不自由も、逆に格別楽しいことがあるわけでもなしに穏やかな休日を、世間から隔絶された僻地でたった一週間すごすだけ・・・のはずだった。そこに一人、又一人と死人が出る。
犯人探しをする者、推理をする者、脱出を試みる者、泣く者、怒る者、傍観する者・・・次第にヒートアップするお互いの憎悪、混乱ともなればお決まりのミステリーらしい展開が想像されるのだが、そうならなかったことに拍子抜けとも意表をつかれたともいえる不思議な感覚が残った。
勿論みな恐怖する。犯人は誰だと、凶器は何だと、探すし討論もする。
しかし、どこか冷めている。それは語り手(主人公)が何事にも無感動であるからだ。 無感情、というべきか?
どこか人並みの感情の起伏をもてない、情緒をもてない主人公あやめ。
「あやめもわかぬ」のあやめ。物事の道理や分別、人間としての筋を知らぬ人間が語り手なのだ。だから全体に流れるように進むストーリーだし、どこからどこまでが「正常」なのか、後半を読むにしたがってそれは徐々にあやふやになっていく。
ゆめうつつの物語、というには写実的過ぎる。リアルな物語かといえばそれほど現実味があるわけでもない。ただただ人が死んでいき、一人が犯人として登場し、物語が終わる。そこに、日常に簡単に潜めてしまえる程度の、しかし殺人を起こしてしまうほどの狂気が犯人にうずいていたことを、あとあと知るだけである。
淡白だがその淡白さの中に静かな狂気に充足している彼らがいる。
どこかねっとりとした単語表記(カーテンではなくカアテン、アルコールではなくアルコオル)がこの淡白さに粘りを付けて読むものをはなさない。
ミステリーとしてだけでなく恋愛モノとして、この冷めた不気味さは読むに値する。
紙の本
無邪気が抜けた風船は、やがて地面へ堕ちて行く
2001/01/11 17:13
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:竹井庭水 - この投稿者のレビュー一覧を見る
文の動きが面白いですな。「グレエプフルウツ」やら「カアテン」といった言葉使いとか、ふわふわした比喩を使うなと思ったらバッサリ斬る表現が来たり。はてさてどんな展開になるのやら、と思ったら。え?孤島で連続殺人事件?これまた古風な。
喫茶店を切り盛りする野坂あやめ達が慰安旅行に出発。常連やその友達も巻き込んで、向かった先は無人島。6泊7日波瀾含みの男女8人の旅。そんなバカンス気分は2日目の朝に吹っ飛んだ。鍵のかかった室内。硝子越しに血まみれで倒れている参加者は、あやめの元不倫相手の妻だった。連絡の途絶えた孤島。また一人、また一人と…。
クローズドサークルのお手本のような設定。しかしこれをそのまま書いたのでは名が廃る。ふわふわした主人公の語り口、新興宗教が残した建造物、海と空と風の青。非日常の中に現れる非現実な死体。手垢のついた設定を乳白色の霧に埋め、読み手を飽きさせません。やがて物語は非現実から現実へ、否応無しに着地して行きます。このフェードインの使い方が上手いなぁ。
うーん、最後のネタは特殊なだけにちょっと人を選ぶか。最後ちょっとバタバタした気がして、これ以上殺す事もなかったん違うかなぁと思ってみたり。この聿使いなら連続殺人じゃなくても十分ひっぱれると思うのだけれども。張り巡らされた愛の糸。凍えたのは島か心か、はたまた人か。
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意外に面白かったんだよね。でも内容よりも心に残ったのはこの人の文体。淡々と流れるように進む物語なんだけどこれがまたなんと言うか活字に泳ぐというか。ふわふわしながら読んでた。後だまされた。
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鮎川哲也賞受賞作。まあ、面白かったです。でも、なんというか・・・まあ、もう一度この著者の作品を読んでみようかなとは思いました。
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孤島に閉じ込められた人々。始まる殺人。
ありがちなシチュエーションのミステリー(まだ最後まで読んでないけど)。
なんか文体が独特で印象に残らない。限られている登場人物なのに、何度もめくり返して確認してしまった…。
「ボク」とかいう言葉が似合いそうな文章。
この作者のほかの作品も読んでみようと思うことは思う。
Lost Generation風?
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無人島とはこれまた古風な―とは言い条、お得意ぐるみ慰安旅行としゃれこんだ喫茶店"北斎屋"の一行は、瀬戸内海の真ん中に浮かぶS島へ。数年前には新興宗教の聖地だったという島で、八人の男女が一週間を共にする、しかも波瀾含みのメンバー構成。古式に倣って真夏の弧島に悲劇が幕を開け、ひとり減り、ふたり減り…。由緒正しい主題をモダンに演出する物語はどこへ行く。
得意客ぐるみ慰安旅行としゃれこんだ喫茶店〈北斎屋〉の一行は、瀬戸内海の真ん中に浮かぶS島へ。かつて新興宗教の聖地だった島に、波瀾含みのメンバー構成の男女八人が降り立つ。退屈する間もなく起こった惨事にバカンス気分は霧消し、やがて第二の犠牲者が……。孤島テーマをモダンに演出し新境地を拓いた、第四回鮎川哲也賞受賞作。
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ひらがなが独特で、その言い回しが瑞々しく感じられた。終盤の追い上げにはこちらが狐につまされた感じだったけれど、一人称独特の罠というか、最期で納得。大人なようで子供な複雑な愛情模様が面白かった。
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【休暇旅行先の弧島で起こる連続殺人】
第4回鮎川哲也賞受賞作でミステリーです。・・・なんでしょう?文体をキレイに見せたい感がうざいというか。現実感が乏しい感じがしました。そういう世界が好きな人にはいいんだろうけど。
登場人物にも現実感が気薄でもっと現実味ある設定だと私的にはよかったと思います。と言うのも、殺人事件が起こってからはどうなるんだ!?とドキドキと読めたからです。
作者のこだわりなのかカタカナ言葉の棒線部分が・・・例えばグレープフルーツならグレエプフルウツと表現しててモォタァボォト、ブルウジインズ、コオヒイなどなど
きりがないんだけどその表現がねどうも好きになれなくて最後までイライラしました(-o-;
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★あらすじ★デビュー作。喫茶店オーナー・あやめは、常連客や友人達8人で無人島に慰安旅行に行くことになる。気の合う仲間だけの楽しいバカンスのはずが次々と友人達が殺されていく…
★感想★「コォヒィ」「ボォト」といった独特の仮名使いのせいか、浮世離れした登場人物達のせいか、読んでいるうちに非日常の世界観を割とすんなり受け入れられました。 ミステリとしては古典的で目新しさは感じませんが、「ミステリの形式で書かれた恋愛小説」としては秀逸。
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連絡手段のない孤島で起こる連続殺人事件。
ミステリーだけれども、ちと違う。愛情といっても綺麗な愛情ではなくて、とても重くて悲しい余韻を残すものでした。
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数年前、この本は『面白いミステリーない?』って話をしたときに、よーこから紹介してもらった作品だったと記憶しています。
ありがとう、よーこ!
…正直、ミステリー離れをしつつある私が今でも、
近藤さんの作品だけは欠かさず買うようになったきっかけをくれて!
しかも近藤さんの作品も当たり外れがあるから、
この本を読んでいなければ次を買おうとは思わなかったでしょう。
…なんというか…「孤島の殺人事件」なんて、
ベタベタな展開をここまで面白く読ませてくれる作品を
私は知りません。
全編を通して流れる、昏く重い空気も私のツボ!
ラストも…なんというか…
女性だから書けたんだろうなという感じで、
私は大好きです。
恋愛とミステリーを絡めた作品を書かせたら、
この人以上はないのではないか、とまで思っております。
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(内容)
得意客ぐるみ慰安旅行としゃれこんだ喫茶店〈北斎屋〉の一行は、瀬戸内海の真ん中に浮かぶS島へ。かつて新興宗教の聖地だった島に、波瀾含みのメンバー構成の男女八人が降り立つ。退屈する間もなく起こった惨事にバカンス気分は霧消し、やがて第二の犠牲者が……。孤島テーマをモダンに演出し新境地を拓いた、第四回鮎川哲也賞受賞作。
女性向け、ミステリ。
ラストの切なさが秀逸です。
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近藤氏の作品の中で最も、主人公の感情や作風に破滅願望のような印象を受ける作品です。とても「厭世観」「虚しさ」を感じます。心地よい読了感をいただきました。
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2009/03/15読了
カタカナの表記方法がくすぐったいし、トリックも有り得ない。
それでもぐいぐい読ませるのは力量か。
ただ終盤の主人公の感情は、多分男性には理解しがたいだろうとも思う。
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第4回鮎川哲也賞受賞作で、著者のデビュー作。
北斎屋という喫茶店を経営する<わたし>となつこさん、それにそこに集まる知人たち6人、合計8人で、夏に無人島の別荘へ旅行しようということになった。かつては新興宗教の聖地だったその孤島で、連続殺人事件が起こる。
典型的な「本格ミステリ」と呼ばれる小説。文体は古風で、カタカナも「ジインズ」、「コオヒイカップ」などと表記される。本作が出た当時(1993年)に読んでいればどうだったかわからないが、今のわたしにはあまりにも舞台が典型的すぎてうまく入り込めなかった。レトロな雰囲気の本格推理小説が好きな人にはたまらない作品かもしれない。
しかし、ラストの、どんでん返しのどんでん返しには驚かされた。8人の男女関係における微妙な心理が、切なさの裏にある憎悪をかきたて、自分もその場にいる9人目となって苛立ちを覚えた。
ちなみに、本作が鮎川哲也賞を受賞したときの最終候補作の中に、貫井徳郎の『慟哭』がある。いずれ読んでみたい。(2006.2.7)